宿の企画室

□クリスマス企画『安倍家編』
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クリスマス企画フリー小説

『安倍家編』

サンタクロースの落し物

 12月24日。その日珍しく雪が降った。
家族と一緒に祝うクリスマスは珍しいくらいのホワイトクリスマス。
昌樹はその様子を縁側でぼーっと見ていた。

「昌樹」
「もっくん…?」
「何してるんだ。寒いだろ?こんなところで…」
「うん。いや…クリスマスだなぁって思ってさ」
「正確にはイブだぞ。孫」
「孫いうな!」

 いつもの憎まれ口を叩きながら憎まれ口を返す物の怪と昌樹。
クリスマスイブ。クリスマスの前日。
前日はみんなで近くにあった大きなショッピングモールに行き、クリスマスに食べるご馳走の材料を買いにいった。
今でもそれは続いているのだが、あの時に比べて子守の数が一つ減った。
 少し前まで両手で片方ずつ小さな手を握り、買い物をしていたのに……。

「もっくんってさ」
「何だ?」
「サンタクロースって信じてる?」
「はぁ?そんなのいるわけないだろう。何言ってんだよ孫」
「孫いうな。でもね物の怪…サンタクロースって本当にいたんだよ」

 「物の怪いうな」という台詞を遠くに聞きながら、昌樹は自分が小学生だった頃を思いだしていた。

これは昌樹と浩明が見つけたあわてんぼうのサンタクロースの話。


 昌樹と浩明が小学2年生の時。
ショッピングモールで買い物をしていた神将達と春明は孫二人を連れて来ていた。
毎年のことなので道は大体把握している浩明と、未だに目を離したら迷子になる(というよりなろうとする)昌樹の手を握って紅蓮は店の中を歩いていた。

「一人で歩ける…手、離して紅蓮」
「ダメだぞ。浩明。お前が迷子になったらどうするんだ?」
「そこの馬鹿と俺を一緒にしないでくれる?」
「ば、バカじゃないもん!バカって言った方がバカなんだぞ!浩明!」
「ほぉ。言ったな。バカ昌樹君」

 この当時泣き虫だった昌樹と嬉々として弟を苛め倒すという浩明の力関係はハッキリとしたものになっていた。
すでにこの頃から毒舌をサラリと言うような子供だった浩明。
幼稚園の頃は素直ないい子だったのに、どうしてこんなに捻くれてしまったのか。
心の底で嘆きたいのを必死で押さえていた紅蓮は二人を連れて玩具のお店に行っていた。
 玩具に夢中になる昌樹と絵が綺麗だが難しそうなパズルを前に感激している浩明を見ながら、やっぱりまだまだ子供なのだなぁと紅蓮は思った。

「騰蛇」
「勾…どうした?天后たちと一緒に食い物見てたんじゃないのか?」
「いや。あっちにいるよりこっちで双子を見ていた方が面白いと思ってな」

 笑いに来ただけのようだ。
勾陣とも随分長い付き合いだがこういうところは変わっていない。
昔と違いとても平和になった平成の世で、あの双子達が平和な人生を送ってくれればい。過去にあったような事が二度と起こらない平和な人生を送ってくれれば…。

「それで…いいのかもしれ………えっ?」
「どうした?騰蛇」
「……おかしいな。勾陣。俺の目の錯覚か?さっきまであそこにいた昌樹と浩明がいなくなっているように思えるんだが?」
「いや…気のせいではないな。いなくなってる」
「っ!?浩明ぃ!?昌樹ぃ―――――!!!!?」

 十二神将最強改め孫バカである紅蓮の叫び声が休日のショッピングモールに響いた。
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