宿の企画室

□クリスマス企画『神無月家編』
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クリスマス企画フリー小説

『神無月家編』

クリスマスの作り方

これはクリスマスが始まる一週間も前のことだ。

 公園でうな垂れる赤が二人いた。
どちらもベンチの両端に座り鬱陶しいくらい憂鬱な溜め息をついている。
ただ、どちらも美形なため見ている人は美青年の溜め息を見て、何か深刻に思いつめているのだと錯覚してしまう。
しかし。実際はそんなことはないのだ。

「澪へのクリスマスプレゼントどうしよう…」
「昌樹へのクリスマスプレゼントをどうするべきか…」

 十二神将が一人、最強と謳われる騰蛇と摩訶八将の一人、同じく最強を謳われる神威は同じような内容を呟きながら途方に暮れていた。
 季節は冬。クリスマスが来る時期。
子供はサンタクロースからのプレゼントを心待ちにする時期なのだが、いかんせんこの二人には物欲というのが根本から存在しない。
クリスマスプレゼントは何がいいと聞いたところ、二人とも何でもいいと返されてしまったのだ。
 二人が喜びそうなものを探して街を歩いていたのだが、何に喜ぶのかというのが全くもって思い浮かばない二人はたまたま出会い途方に暮れていた。

「そういえば…昌樹は澪のことだいぶ気に入ってたよなぁ」
「澪はダメだぞ!澪は俺達と一緒にクリスマスするの!!この日だけはいくら末っ子君でも譲らないからね!!」
「ダメか…」
「ダメに決まってるだろ。何人の主をプレゼントしようと思ってるのったく…」

 そう言って会話が終了する。
再び沈黙が続いて、溜め息が漏れた。
溜め息はズンッと空気を重くして、男二人を路頭に迷わせる。
 ふと前を見れば男二人の前を小さな子供と母親が通り過ぎた。
神威はその様子を目で追う。

「ママー!今年は雪降るかなぁ!」
「さぁ?どうかしらね」
「降ればいいなぁ…そういえばママ。今日は変わったケーキ作るの?」
「クリスマス・プディングっていうのよ…」

 会話は続いて、離れていくにつれて親子の会話は遠くなっていく。
クリスマス・プディング…ケーキの一種であり、確か外国に変わった風習もあった。
ピコンッ!と神威の頭に電球がついた。
しかし、立ち上がり駆ける様にその場を去ろうとする神威の足が止まる。
 夏のあの時とは逆で今度は紅蓮が神威の手を掴んでいた。

「離してくれない?俺様超ビックリサプライズを思いついたから早く仕度したいのよ」
「誰が離すか。何プレゼントするつもりだ?」
「フッフーン!秘密だよ。秘密。せいぜいそこのベンチでうなだれているがいい!」
「その秘密を言うまで誰が離すものか!」

 自分も行き詰っているのだからお前も行き詰れと言わんばかりに手に力をこめる紅蓮。
何て大人気ないのだろうと考えはしたが、きっと彼も必死なのだろう。
あの主も物欲はあまりなさそうだから、お互い今苦労しているのだから。
だが同情する気も協力する気もサラサラない。
神威はしばし考えた後あらぬ方向を指差してあっ!と叫んだ。

「末っ子君が護衛もつれずにあそこでフラフラしてる!」
「何っ!?」
「スキあり!」

 手の力が緩んだと同時に神威はダッシュした。
見事な走りのおかげで待てという紅蓮の声が遠く聞こえたが見向きもせずに走っていった。
すぐに同胞の春寝に連絡を取り(この時はたまたま起きていたのでとってもラッキーだった)、その後すぐに食事担当の月夜讀子に連絡を取り、スタンバイは万全。
 後はと神威は適当な路地裏に入ると、誰にも見られていないことを確認してから魔法陣を組んだ。
摩訶八将が使う事を許された『祈願』の魔女呉羽の魔法陣の一つ。

「開け。異世界の扉。我を赤き月の世界へと誘え」

 魔法陣から現われた一つの扉に手をかける。
そのまま入ればよかったのだが、後ろからの影に気付き扉に手をかけるのをやめた。
完全に撒いたと思っていたのに、後ろには騰蛇の姿があった。

「アンタ相当煮詰まってるな…ココはダメだ。いくらアンタでもダメったらダメ」
「いいから。お前がやろうとしてることを吐け」
「そこまで必死になるか!ダメです!これは俺の案だから!絶対ダメだ!」
「昌樹のためなら俺は死んでもプレゼントを持っていく!」
「ダメっていってるでしょ!?日本語わかる?」

 二人の間にいがみ合いが続く。
あまりに痺れを切らして紅蓮の方から仕掛けてくる。
肉弾戦なら負けない自身はあったのだが後ろには扉。周りは路地裏。
後ろの扉を最優先に守るモノと考えて紅蓮の突撃を受けようとしたのだが、運が悪いことに足を滑らせた神威は紅蓮と共に扉の中に入ってしまった。
 扉が静かに閉まり、彼等が異世界へと迷い込んでしまったことは誰も知らない。

クリスマスまであと6日
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