宿の企画室

□有り得ない会合
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 未来というのは幾重にも枝分かれした先に築かれるものである。
大きな質問、小さな質問、分かれる道によって選ばれる未来も違ってくる。
そんな有り得ない未来達がうっかり交わっちゃった狭間の話。




「ここは…どこ?」

 陽奈は眠っていたはずだ。
自分の自室でもっくんを抱いて寝ていたはずだった。
だとしたらコレは夢なのだろう。
白い空間に自分の足音だけが響く、しばらく歩いていると扉を見つけた。
その扉を開けると打って変わってそこは江戸時代のような街並みだった。
けれども人はいない。色とりどりの提燈だけが残った場所。
 夜空には紅い月が昇る。幻想的な場所。
再び前に進むとそこにはキョロキョロと辺りを見渡している少年がいた。
自分と同じくらいだろうか。白銀の髪と目を持った少年はゆっくりこちらを振り向いた。

「あぁ。お前が…」
「あのすみません…ここどこですか?」
「ここは…そうだな。夢と現実の狭間から外れた場所?要するにパラレルワールドの一角と言えばいいか」
「パラレルワールドって…未来の時間軸がって奴ですか?」
「そう。ここはそれがうっかり交わっちゃった世界だ」
「うっかりってどうしてわかるんですか?」
「それはひ・み・つ。誰かさんの思考が相当末期になってるからこうなってるんだよ」
「はぁ」
「じゃあ…まぁとりあえず茶屋の前にでも行こうか。ココじゃゆっくり話もできないし」

 そういって少年にある一軒の茶屋に連れてこられた。
『自決堂』という何とも物騒な名前の茶屋に勝手に入って行ったかと思えば、そこから団子二つとお茶を持って少年は現れた。
勝手にもらっていいのだろうかと思っていると少年は平然と「金は払ってるし、俺だから大丈夫」といって茶と団子を進めた。
それは以外に美味しくて、久しぶりに食べた甘味につい顔がほころんだ。

「美味いか?」
「はい!美味しいです!」
「そうか…俺は神無月澪。お前は?」
「雨宮陽奈。陽奈でいいよ」
「じゃあ俺も澪で。陽奈は…人間なんだな」
「澪は人じゃないの?」
「あぁ―…カテゴリー的にはそうかな。面倒だから妖怪の括りに入れといてくれ」
「はぁ…じゃあそうする。澪は何の妖怪なの?」
「狐」
「耳とか尻尾は?」
「生やそうと思えば……見たいの?」
「一回!一回だけ!見たいって言うか贅沢言うなら触ってみたい!あの犬●叉の耳っぽくいつか触ってみたいと思ってたの!!!」
「そうか…そうか……まさかそこまで真剣にお願いされるとは思わなかった」

 あんまりにも目をキラキラさせる陽奈に気圧されて、澪の頭に狐の耳。腰の辺りから白銀の尻尾がフワリと現れる。
変化の応用であり、自分の姿かたちを自在に変えることが出来る変化を部分的に付け足しているだけである。
陽奈はそのふわふわな尻尾と耳に感動して、さらに目のキラキラ度がアップされる。
昌樹のときだってここまで喜ばなかったが、陽奈にとってはかなりの衝撃らしい。

「さ、さ、さ、さ触ってもいいですか?」
「どうぞ」
「わ、わわわ!柔らかい!ふわふわ!もこもこ!スベスベぇ……わぁ!わぁ!わぁ!」
「興奮…しすぎじゃない?」
「すみません!でもでも…感動して…!」
「そう…っ!…触っても…いいって…言ったけど…」
「はい?」
「あんまり…付け根の……部分…止めて」
「何で…?」
「…陽奈ちゃん」
「はい?」
「俺は狐の妖だけども…仮にも男なわけ……察してくれると嬉しいんだけど」
「???」
「……………純粋培養な女の子食べるほど俺も鬼じゃないんだけどさ」
「????」
「あぁ。まぁいっか。とりあえず…場所変えようか。ココはそういう街だしそういう場所もたくさんある」

 澪は粗方独り言を済ませると尻尾と耳から陽奈の手を遠ざけてから茶屋を出ていった。
しばらく進んでからある店の前に止まるとずかずかと誰もいないその店へと入っていく。
何が何だかわからない陽奈を澪は畳に押し倒す。

「えっ?」
「つまりはこう言う事…煽るなって言いたかったんだけど……夢の中だし。大丈夫。孕むようなことはないから」
「え…うえぇ!?」
「大丈夫。俺慣れてるから初めての子でもちゃんとやってあげるよ」
「え…でも…こういうのって……」
「じっとして…」

 澪の顔が近づいてくる。
近くで見れば見るほど綺麗な顔だが、これはもしかしなくてもキスされようとしているのでは?
そう考えると顔が真っ赤になり、つい目を閉じてしまう。
力が入らずに振り払う事もできない。このままキスされて成すがまま流されてしまうのかと思った。



その時



「させるかぁ!この淫魔がぁ!!!!」



 突如として白い体躯が飛び出し、澪を蹴り倒した。
蹴り倒された澪はそのまま畳に転がり、動かなくなる。
大丈夫かと問う前に、白い体躯…もといもっくんが本性の姿となり陽奈を抱え上げるとすぐにその場を去った。
 彼等の気配が遠くなるのを感じてから澪はゆっくり起き上がる。

「全く…別の次元の俺はあんなのなのか?純粋すぎやしないか?っていうかアレが過保護すぎるからだな。うん」

 今度会った時は、あいつに「ヘタレロリコン大魔王」の名誉称号を与えてやろうと決意しながら澪は魔法を解いた。
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