宿の企画室

□紅と青と時々…?
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 全ての始まりは…昌樹達が冬休みに入ったある日。
あの魔神一の愉快犯には注意しろと言われていたのを忘れていた事が第一の汚点だろう。
第二にその愉快犯を簡単に家に招いてしまった事。
奴はどこからともなく現れる事ができる奴の能力には謎が多いが見つけた時点で追い出すべきだったのだ。
第三に奴と同時にもう一人犬猿の仲というかもういつか殺してやろうかと思う奴を招いてしまった事。
数え上げれば後悔だらけの一日だ。外は雨。自分の心情を表すように雨が降っている。
この野郎。畜生。信じられるか。こんな一日不幸でしかない。
こんな日はもう叫ぶしかない。それくらい赦されるだろう。

「やってられるかぁ――――!!!」
「うるさい!黙れ!」

 彼の心情を否定するかのようにもう一つの叫びが響いた。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「あっ。すみません。勝手に上がってますよトーダ君」
「何でテメェがいるっていうかトーダ君言うな」

 物の怪姿で先に安倍邸にやってきたトーダ君こと騰蛇は目の前でお茶を飲んでいる男(?)に目を細くした。
魔神一奇天烈な男。春寝が天一に出されたお茶を飲みながら寛いでいた。
今日も今日とて奇天烈で面妖なウサギの被り物をしてやってきていた。
それを鋭い目で睨みつけるが目の前のウサギは何のその。
相変わらずな占い師のような格好も変わらないし、男かも女かもわからない見た目もまんまだ。
 気まぐれでめんどくさがりの男がどうしてこんなところにいるのかはわからないがきっとろくでもないことをしでかしにきたのだろう。
神威といいこの男といい魔神には全くと言っていいほどいい思い出がない。

「何でココにいるかって…そんなの決まってますよ。暇だったからです」
「暇だからと言ってココに来るな」
「来ちゃいけない理由でもあるんですか?十二神将の最強は心が狭くていけませんね」
「言ってろ。その茶を飲んでとっとと帰れ」
「わかりました。このお茶を飲んで暇つぶししたら帰りますよ」
「すぐに帰れ」

 少し殺気を出して睨みつけたがなんのその。
のらりくらりと交わした春寝は口の部分パカッとあけてそこからお茶を飲んだ。
うまい具合に全く顔が見えない。
どうしてそこまで顔を隠すのかはわからないが本人は顔を見られるのが大の苦手らしい。
ムスッとしながらも睨みつけていると奥から青龍がやってきた。

「おい。何でお前がココにいる」
「あっ。ムッツリさん」
「誰がムッツリだ!」
「では助平君?」
「っ〜!貴様…死にたいか」
「全く一番も三番もそろって短気で心が狭いですね。うちの一番と三番みたいにもっと心に余裕持ったらどうです?ぶっちゃけ疲れるでしょ?」
「「貴様と話す方がよっぽど疲れるわ……真似をするな」」
「……同族嫌悪って言葉知ってます?」
「「こいつと同族なんて誰が認めるものか………真似をするなと言っている!!」」
「プッ……あーぁ…面白い。これは実験結果がどうなるか楽しみですね♪」

 そう言って春寝は自分の服の袖から玩具の光線銃のようなものを取り出すと物の怪に向けて撃った。
頼りないヒョロヒョロの光はジグザグのような線を描いてゆっくりと物の怪に当たった。
すると、物の怪の変化は解けてそこから十二神将の騰蛇こと紅蓮が現れた。

「なっ!?」
「はぁーい。お二人ともちょっとコレつけてください」
「おい、何だコレは」

 紅蓮と青龍の腕につけられたのはガラスのような腕輪だ。
何の装飾もしているわけでもないただの腕輪だが、よく見れば何かを引っ掛ける取っ手のようなものがついている。
例えるならばそう…まるで手枷の鎖がないもののような…。

「はい。パッチンコ!」

 パンッと手を叩くと青龍と紅蓮の距離が一気に縮まった。
先ほどまでなにもなかったはずなのに腕輪は拳一つ分くらいの距離を残して離れない。
引いても引いても離れない彼等を見てウサギがニッタリと笑った気がした。

「じゃ。そういうことで…」
「「ちょっと待て!!」」
「何ですか?帰れって言ったの貴方達でしょ?天一さん。お茶ご馳走様でした。次はお茶菓子を持ってきますね」
「あ、あの…」
「その前にコレを外していけ!」
「そうだ!このままだとコイツとずっと一緒にいることに…!」
「…………あのですね。ハッキリ言わせていただきますが貴方方、このままでいいと本当にお思いですか?」

 先ほどとは違い真剣な声色で話し始めた春寝に二人は自然と背筋を伸ばす。
こいつはちゃらんぽらんだが、こういう話をするときはとても的を射ていて的確である。
言葉を濁さず、キッパリハッキリと言ってのける為非常に耳の痛い話であるが後にとても為になる事が多い。

「これからますます敵の進行は留まるところを知らないでしょう。人の子の襲来。鍾馗の策略…。
 邪気に群がる妖共を相手にするには自身が強くなる事ももちろん大切です。ですが、それ以上に大切なのは『チームワーク』です」
「チーム…ワーク」
「はい。神威君と翡翠君の例を上げましょうか。彼と彼女は敵対関係にありながらいざという時は一糸乱れぬチームワークを発揮します。
 彼等は無自覚ですが、相手の背中を護り合い戦う事ができます。ですが本人達の仲はお世辞にも良くはないです。たまーに戦闘中に翡翠君は神威君の命取ろうとしますし。
 では…貴方方はどうでしょう?助平さんは完全なる個人プレー。トーダ君は主に勾陣さんとかと一緒に組む事が多いのではないですか?」

 その通りだ。滅多に鉢合わせる事などないし鉢合わせても青龍とは絶対に組む事はない。
何故かと聞かれればわからない。千年前から成り立っていた関係だ。崩すのは難しい。

「戦闘に私情を挟むのはよくありません。特に味方同士の瓦解は問題です。ヴァーディを組んでいる相手に不信感があれば敵は容赦なくそこをついて仲間割れを狙うでしょう。
 少なくとも力のない僕はまずそういうところを突きますね。うまく同士討ちできれば好都合。一方が疲れたところを不意打ちできればこちらも好都合です。
 トーダ君も助平さんも仲が悪いといいますがいつそういう状況になるかどうか判らない以上…貴方方は特に『協調性』というものを身に付けるべきです」
「グッ…」
「貴方方は一人の人間に盲目的すぎるんです。ちょっとは視野を広げて十二神将同士でコミュニケーションとかちゃんと取ってます?」
「そんなものは必要ない」
「では助平さん。貴方一人で春明様をお守りできると?」
「そんなもの当然だ」
「貴方はそんなに有能だったなんて知りませんでした。
 ということは天后さんや太陰ちゃんのような伝達能力にも優れ、天空さんや太裳さんのよりも結界を張ることに長け、天一さんのような治癒能力を有しているということですよね?」
「俺は闘将だ。そんな能力は…」
「ですよねぇ?貴方は万能ではありません。闘将と言ったところで一人の式神。出来ない事なんて山のようにありますよ。
 だったら貴方のできないことをするのはその仲間です。一人で突っ走るだけじゃ『喧嘩』には生き残れても『戦争』には生き残れませんよ?」

 ズバズバと嫌味を交えて言われる言葉に紅蓮は考える。
彼が言っていることに間違いはない。十二神将も付き合いは長いが紅蓮は特に他の神将とは話などしなかった。
物の怪姿なら話した事はあるが十二神将の騰蛇として他とコミュニケーションを取る事など本当にあっただろうか?
否。それこそ勾陣や六合などとしかまともにコミュニケーションを取っていない気がする。
 誰もが用がなければ異界に引き篭もりっぱなしの十二神将にそもそも信頼関係など成り立っているのだろかと聞かれても疑問を覚える。
ココ数年…太裳や天空の姿など見ていないような気も……。
改めて考えるとアレ?ちょっとヤバイんじゃないか?という考えが浮かんでくる。

「力がないと時々天一さんは嘆かれているようですがそれは違いますよ。戦いで尤も必要になってくるのは前線組みが安心して任せられる後方支援です。
 あぁ。だからと言ってウチの邑ちゃんみたいなのを見習ってはダメですよ。アレは超特殊ケースです。いろいろ出鱈目なんで真似はダメです」
「お前…良い事言うな」
「朱雀さんはその辺をしっかり自覚しておられる分二人よりはまだマシですが……アンタも天一さんばっかり見てるとそのうち大切なもんポロリと溢しちゃいますよ」
「うっ…精進する」
「では、話を戻します。貴方方二人、他者とのコミュニケーションが取れないというのは致命的です。
 それは敵に四方を囲まれながら篭城するも武器も食料も届かない状況を自ら作り出しているようなものです。っていうか他者とコミュニケーションが取れないのに主とわかりあえていると本当に言えるのでしょうか?」
「「っ!!?」」
「無理にとは言いません。たまにはアンタ達二人、異界に引き篭らずに二人でどっか行って来たらどうです?
 調度、もうすぐ雨が降りますし……駅まで澪様と昌樹様をお迎えに行くというのはどうでしょう?」

 まるで狙っていたかのように傘を取り出して二人に一本ずつ持たせると、真剣な表情で二人の開いた手首を握り……言った。

「じゃ。頑張ってください。ファイト♪」






 そうして離れた手首には……。






















もう一本の手錠がついてた。















「へっ?」
「これは……」

「いやぁ…ホンットお馬鹿さんって僕大好きですよ。遊びがいがありますし…本当に僕を退屈させないじゃないですか」

 清清しくそう笑った彼はデジカメを取り出して呆気に取られた二人の姿を写真に収めた。
パシャ。パシャっと機械音が響くなか…不気味な沈黙が支配する。

「では影ながら『初めてのおつかい』を見守らせて頂きますよ。
 あぁ―……本当に面白くなりそうでいまからドキドキとわくわくが止まりませんよ。せいぜい無様にあがいてください」
「おい。ちょっと待て…」
「これは…どういう…事だ?」
「アレ?まだわかんないんですか?僕、『暇を潰しに』来たんですよ?まぁ色々理屈捏ねましたが……もっとぶっちゃけて言うと…」















「僕が面白ければそれでいっかなって…♪」

「「ふざけんなぁ―――――――!!」」



最悪の一日が始まった。
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