小さな食堂(短編)

□澪 行き倒れた天狗を見つける話
1ページ/8ページ

 この話は、俺がまだアノ街にいて摩訶八将とも出会う前…妖怪にもいろいろいるのだと学んだ日の話。



 朝。いや、この世界に朝は存在しないので真っ赤な月が昇った頃が朝なのだ。
 澪は布団から顔を出し、服を着替えて、布団をたたみ、朝食を作ろうといつものように行動していた。
 そろそろ酒を飲んでくると昨日の晩に出かけた師匠が帰ってくる時間。
二日酔いに効く魔法をかけたレモン水を作って待っていれば、出会い頭に魔弾(魔力を篭めた弾を連発してくる魔法。手加減してくれてはいるようなので死にはしないが、しばらく動けなくなる。)が飛んでくることはないだろう。多分。
なんと理不尽なと思われるかもしれないが、もうこれが日常で逃れられない現実だ。
 自分の分の朝食と師匠の分の朝食を作る最中にやっぱり師匠は帰ってきた。
いかにも頭が痛そうに片手で頭を押さえて、壁にもう片方の手をつきながら死にそうな声で「ただいまぁ…」と言う。
そんなになるまで飲まなければいいのにと思うが口には出さない。
「おかえりなさい」と言いながら、澪はレモン水の入ったコップを師匠…呉羽に渡した。
「ありがと」と言う師匠に簡単かつ適当に「はい」と答えて、澪はふと師匠が入ってきた勝手口の外を見た。


勝手口の外に人(黒い翼っぽいのが生えて、修験者のような格好をしているような奴を人と呼んでいいのかわからないが)が倒れていた。


しばらく吃驚していた澪だが、すぐに頭はこれからどうしようという判断を脳に仰ぎ、決定した。

「師匠。朝食は今、作っているのでもう少しまってください」
「あら。今日のは何?」
「シャケの塩焼きと味噌汁とご飯です」
「おいしそう。できたら呼んで。それまで一眠りしてくるから」
「……わかりました」

 気分良く自室に戻る師匠を見送りながら、朝食ができたらどうやって師匠を起こそうと考えつつも朝食を作る。
澪は目の前の死体もどきをスルーすることにした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ