小さな食堂(短編)

□高淤の憂鬱
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 平安の時代から千年経ち、妖怪も随分数が減った。
理由は知らないが、最近どうも妖怪の数が少ない気がするがどうでもいい。
平安の世のような混乱はもうなく、人間の世もいろいろあるらしいが神様には関係ない。
貴船の龍神…高龗神は正直退屈していた。
退屈しすぎて、最近は何もする気が起きない。
 千年前はもっと面白かったと高淤は感慨にふける。
自分を楽しませる存在が二人いて、そのどちらをパシリにするのはとても楽で楽しかった。
その守護をする十二神将達…主に最強の騰蛇をいじって遊ぶのも楽しかったが、もう何年も前からあの神将は引きこもって出てこなくなった。
 この数年はずっと神界に引きこもっていた高淤だが、もう篭っているのにも飽きて何か面白い事はないか、ないかと色んな世界をウロウロしていたのだ。
そして、面白い事を求めて久しぶりに人界に下りたはいいが、やはりそれほど面白いことはないようだ。
 だが、ふと気配を探れば面白いものを見つけた。

「そういえば…奴はもう転生していたのだな」

 あの安倍清明の生まれ変わり。春明とは何度か会った事がある。
高淤の記憶違いではければまだ生きているはずだ。
その春明のもとにまた面白い魂がいることにも気付いた。
その魂につくのは、昔懐かしい神気。

「ほぉ…これは面白そうな」

 千年前、儚くも人のために命を落とした魂が目の前にある。
そして、その魂にそっと寄り添うようにかの神気の持ち主もいた。
これは面白い暇つぶしになりそうだと、さっそく高淤は出向く事にした。




某所。安倍邸では、小学4年生の昌樹と浩明が遊びに来ていた。
昌樹は春明の部屋で術書などを漁り、陰陽術の勉強をしているなか浩明は自由研究に必要な資料を集めてくると近くの図書館に行ったばかりだ。
二人とも勉強熱心なのはとてもいいことだが、昌樹はまだ夏休みの宿題は一つもやっていない。
物の怪はそれでいいのか?と再三聞いたが、昌樹は…。

「だって陰陽術の本はじい様のところにしかないんだもん」

 これを機に勉強しなければ、家にある書物ではすぐに終わってしまうし読み飽きたと言った。
末恐ろしいくらいの天武の才を持った昌樹は陰陽術を使うに関しては春明並の才能を見せるものの、高位の術を使うとすぐに気絶してしまうという弱点を持っていた。
 昔の昌浩と比べると全く逆の性質を持っていた昌樹は、逆に細かい事が得意で占も昔の昌浩よりもできたし、良く当たった。
それでよく幼馴染の占をしてあげるようにしているが、ご近所ではテレビの占よりも当たると評判である。
 学校の勉強は全くできないのに、陰陽術だけうまくなっていく昌樹に物の怪は少し不安になる。
 もう妖退治だけで食って行ける時代は終わったのだ。
陰陽師の仕事は裏家業になり、表立ってやっている者はいない。
テレビで放送している霊能者達も大抵はインチキで、全く違った方向に、誰もいないところを指差して幽霊がいるという始末。
日本の霊能者の質も落ちたと落ち込む一方で、春明が帰ってきた。

「おぉ。昌樹や。勉強熱心じゃのぉ」
「じい様!お帰りなさい。浩明は図書館に行って…結構経つからもう少ししたら帰るよ」
「そうかそうか。そういえば…誰か護衛にはついているのかのぉ?」
「俺の変わりに六合が。術書を漁ってる時の昌樹は俺が見張っていた方がいいと思ってな」
「何さもっくん!もう昔みたいに裏庭に大穴開けたりしないもん!」
「ホッホ。昌樹の大穴はその後よい温泉になってみんな楽しんだじゃろ?」
「よくあるかぁ―――!!そのせいで俺達がどれだけ苦労したと思ってんだ!!?」

 去年、たまたま昌樹に目を離した物の怪だったがあの時以来、術書を漁る昌樹から目を離したりはしなかった。
物の怪が目を離したスキに、昌樹がこっそり術を試し篭める霊力も考えなかったおかげで裏庭に巨大な大穴が開いた。
 そこから温泉が噴出し、自分達神将が整備したおかげで源泉掛け流しの露天風呂が完成したのだ。
強力な術を使いすぎた昌樹の看病を物の怪と浩明でして、残りの男手…特に青龍がものすごーく不機嫌な顔で整備しつつ、その後ものすごーく文句を言われた事は記憶に新しい。
 起きた昌樹は後に大きなタンコブを三つほど作りながら、懇々と浩明に三時間ほど説教され、やっと解放されて露天風呂に飛び込んでからまた説教され…計六時間という新記録を叩き出した。
 その様子を見ていた太陰がやっぱり説教攻撃って辛いわよね。と昌樹と一緒に共感していた。
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