死人に捧げる花の名は

□死人花  −3−
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小さなリュックにいろいろなものを詰め込む。
天一が作ってくれたお弁当。コンビニで買った三百円以内のお菓子。
ハンカチとポケットティッシュ。水筒。お金。携帯(まともに使えたことは一度としてない)。ここまではまだいいとしよう。
 この後にお札や数珠が入っているあたりが、安倍家の孫だと言える。
前半までなら純粋なピクニックパックに見えると言うのに。

「よしっ!行こう!もっくん!」
「……ちなみに聞くがどこへ?」
「もちろん!澪を探しに!」

 物の怪の肩がガクッと外れた。
この前の戦いの傷は癒えてはいない。もちろん勾陣もだ。
あの戦いでほとんど怪我を負わなかったのはゴーレムと邑挟と戦った六合と白虎のみ。
重症を負った勾陣は異界で回復しているが、いつかあの女にリベンジするのだと燃えている。あまり近づきたくない状況だ。
 千年前に冥府の官吏が出てきたほどではないが、リベンジに燃える勾陣ほど恐ろしいものはない。
物の怪とて怪我が完治したわけではない。
神威が使う不可思議な力。あれの正体もわからずじまい。
立つことすら間々ならず、骨は悲鳴を上げ身体にもかなりの負担が掛かった。
 その後、神威と翡翠の攻撃に敗れ地に這いつくばった。
勾陣よりは軽症で済んだものの…十二神将最強の矜持はボロボロだった。

「お前…アイツに友達になれないって言われたばかりじゃなかったか?」
「それでも俺は友達になりたい。大体なんで魔女…でも澪の場合は魔法使いじゃないのかな…と陰陽師が友達になれないなんておかしいよ!絶対おかしい!!」
「魔を扱う魔女と魔を払う陰陽師。明らかに対照的じゃないか。孫」
「孫いうな!だからって友達になっちゃいけないわけ?やっぱりおかしいよ!」
「死亡フラグを立たせそうなキャラとまで言われて……」
「う・る・さ・い・よ……物の怪のもっくんのくせに!俺が友達になりたいからなるの!」
「物の怪言うな!」

 再び低レベルな口論が始まる二人。
毎度毎度やっていて飽きないのだろうかと六合は思っているが、いざという時のために警戒は怠らずに二人の後についていった。

 その頃、安部邸の一角で動き回る黒い影があった。
気配もなくうろつく姿は二匹のネズミに見えなくもない。
どちらも子供のようで屋根裏に上り、屋根の上に出て出て行った二人の様子を見ている。

「お主等…そこで何をしておる?」

 ネズミが振り返った瞬間。屋根の周りを結界が覆った。
もう逃げられないと知った二匹は結界を張った者を見た。
ずいぶんと年を食った老人が後ろにいた。灰白色の髪と髭を蓄えて目を細めている。
何とも近寄りがたい人物だが、結界だけならそれなりの強度を誇っている。
自信満々に出てくるくらいの実力はあるということだ。
十二神将の一人天空。

「チッ…見つかっちまったなぁ。喜喃」
「だねぇ。シュンちゃん」

 天空は少し驚いていた。
もっと低い声かと思っていれば、案外高く。幼いとさえ思えるような子供の声。
ネズミの上に魔法陣が浮かび上がり粉々に砕ける。
その粉がネズミに降りかかった時、二人の少年少女が姿を現した。

「あとはアンタの姿だけだったからこれで俺らの任務は終了なんだけどね」
「ずぅーっと潜んでればいつか見つけてくれると思ったよ!天空おじいちゃん!」

 一方はとっても冷めた感じで、一方はとても愛らしく天空に向かって手を振っている。
太陰くらいの歳の黒髪の少年。全身を黒一色で染めているが腰には赤いチェックの腰布が巻かれている。
もう一人はピンク色にフリルがたくさんついたワンピースを着た金髪蒼眼。
歳は玄武よりも幼い。小学校の低学年くらいしかない。
愛らしく「おじいちゃん」と呼ばれ天空は、春明の孫バカが移ったかと思ったが、何とか建て直し二人に向き直った。

「お主等…いつからこの邸におった?」
「ずぅーっと前からだよ」
「ずぅーっと前からとは…いつくらいじゃ?」
「ずぅーっと前はずぅーっと前だよ?」
「ムリムリ。コイツから引き出せる情報なんてないって」
「ムゥ!ちょっとそれは失礼だよ!シュンちゃん!」

 ポコポコと小さな手で少年を叩く少女は顔をぷくーっと膨らませて少年に猛抗議している。
敵でありながらその姿は何とも微笑ましい。
本人は気付いていないかもしれないが、かなり清明から春明にまで受け継がれた爺バカが少々感染しつつある。
 この光景だけをみているならば彼等は何の害もない子供に見えるだろう。
ただ巧妙に隠された神気。この天空がいながら邸への長期潜伏を許すほどの諜報活動に長けている者。
侮ってはいけない。天空は結界の強度を少し強めた。
少女の頭を鷲掴みにしながらそのことを感じ取った少年は少女を後ろに背負うような形で簡単なストレッチを始めた。

「これ以上アンタに結界の威力を強められると厄介だね。そろそろ帰るよ」
「逃がすと思うてか?」
「そっちも…逃げられないと思ってる?ハッ。この程度の結界で逃げられないと思われてるなんてチャンチャラおかしいね」
「おかしいね」

 少年は脚に力を入れて飛びあがる。そして邸を覆っている結界に身体を捻らせて二段蹴りを与えれば、一撃でヒビが入り、二撃目で完全に結界が破壊された。
驚く暇もなく、残った結界を足場代わりにし再び結界を蹴れば少年は瞬く間に山の向こうに消えてしまった。
 神気を追うにもかなりの速さで一瞬にして離脱された為、もう追えなくなってしまった。
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