死人に捧げる花の名は

□死人花  −4−
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 玄関から入ってきた澪はしばらく昌樹と目を合わせると踵を返してその場から去ろうとした。
だがガッシリと神威に米俵がごとく抱えられて、安倍邸の玄関前に降ろされる。
その間、昌樹の目は光り輝いたままだ。

「おい。こら。何のつもりだ?」
「凄んでもダメだって。澪たん」
「………翡翠」
「すみません。澪様…私とて…私とて辛いのです。ものすっごくいかせたくないんですけど!!でも!でもぉ!!」

 本当に彼女なりの苦渋の選択のようにみえる。
あまり攻めては、自害するとまで言い出しそうな勢いなのでそれ以上の追及はやめた。
 その代わり澪はここまでつれてきた神威に目線を向けた。

「神威」
「だってさぁ。澪たんだってホントはすっごく末っ子君と友達になりたいんでしょ?今なら当主の春明もいないわけだし?いいじゃんか。別に」
「当主がいなくても十二神将共が許すわけないだろ。大体…」
「澪が泊まりに来てくれるの!?わぁーい!やった!やった!」

 澪のまさかの来訪に、はしゃぐ昌樹は引っ付き虫がごとく澪に抱きついてきた。
またか!と叫びながら澪も必死になって抵抗する。
川辺でのやりとりが再び行われ、物の怪も神威も溜め息をついた。
なんだかんだで嬉しいくせに素直になれない澪と素直に喜ぶ昌樹。
全く対照的な二人に、周りには笑みが零れた。

「おい!貴様…さっきから思ってたが澪様に気安く触るなぁ!」
「まぁまぁまぁまぁ。スイちゃん…嫉妬は瞬君の専売特許でしょ。醜いよぉ」
「うるさい!ガキ!澪様から離れろ!じゃないと撃つ!絶対撃つ!!」
「はいはい。じゃあ…澪たんはココに置いてくから。後ヨロシ…」
「あれ?神威達は泊まらないの?」

 昌樹の一言に、神威達は一瞬動きを止めた。
はい?と聞きなおした神威達の言葉を昌樹がもっと意外だという顔で問いかけなおした。

「えっ?泊まらないの?」
「何で?」
「何でって澪がいるのに神威達が泊まらないなんておかしくない?」
「えぇ――…そぉくるの?だってさ。俺達いたら邪魔じゃない?きっと物凄く邪魔よ。
ユウちゃんはメッチャ食うし、スイちゃんはお前達二人の仲メッチャ邪魔するよ。
撃つよ。凶暴よ」
「人を猛獣みたいに言うな!!」
『人様の家ではそんなに食べない…………多分』
「それに十二神将だって俺達がいたら警戒して晩飯どころじゃないんじゃないの?」
「それは天貴を口説こうとした貴様だけだ」
「ほら。メッチャ警戒されてるぅ―…」

 他人が来た時に警戒する犬のように神威だけを威嚇する朱雀を天一が宥める。
昌樹は何気に考えているんだと思った。
魔神と聞くから、もっと恐いイメージだと思っていたが邑挟は人が良いし、翡翠は澪を本当に大事に思っていて、神威は兄貴肌が強くて…きっと誰よりも澪の為を思って行動している。
 今でもこの場からいなくなろうとしているのは、澪の為を思ってだろう。
いらない警戒を持たせたくない一心でこの場から離れようとしている。

「神威達も泊まっていっていいでしょう?もっくん」
「ま…まぁ…」
「それに他の八将の人紹介してもらってないし」
「おい。神将。こいつ甘やかしすぎるなよ。キラキラオーラにほだされてんじゃねぇぞ」
「マジで!?じゃあ…お言葉に甘えて泊まらせてもらいまーす!今日一晩ヨロシク―!」

 彼なりの礼儀正しいお辞儀をして堂々と澪を引き摺って、天一が案内する客間へと行く。
その姿を見て、昌樹はますます料理に張り切り始めた。
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