その他版権

□悲しみのインターバル
1ページ/1ページ

「スザク?」

 声が聞こえた。
 僕が横になっているベッドの隣、僕の背中越しにかけられた声。
 躊躇いがちなその声で、僕は目を覚ました。
 日が昇ったばかりなのか、それとも単に僕が見ている方向が壁だからか、部屋は薄暗く感じた。
 返事をしなかったせいか、声の主はそっとベッドから降りようとした。
 
 その腰を、捕まえる。

「スザク、起きたのか」
「・・・ルルーシュ、今何時?」

自分でも驚くほど掠れた声で、僕は言った。
細い腰に回した腕に、少し力を込めた。
視界いっぱいの肌の色は、僕のそれとは違って、ずっとずっと白い。

「五時くらいだ」
「そっか・・・」

ルルージュの腰から手を解いて、自分も起き上がる。
昨日の夜、ルルーシュに抱かれてそのまま眠ってしまったようだ。
腿や腰には、乾いた精液がこびり付いていた。

「先にシャワーを使っていい。今日も仕事、だろう?」
「うん」

のそりとベッドを降りると、腰に鈍い痛みが走った。
というのも、情事の途中で、ルルーシュは動けなくなってしまうのだ。
体力的な問題だと思うけど、その分僕にかかる負担も大きくなる。
体力には結構自信があったが、こればっかりは仕方なかった。

シャワーのある場所は知っていた。
そして、結構使い慣れてもいる。
広い浴室に入り、シャワーのハンドルをひねると、そのまま冷たい水をかぶった。
徐々に上がっていく水温に鳥肌をなだめられながら、深いため息をつく。

正直、疲れた。

ナイト・オブ・ラウンズに名を連ねながら学生を続けるのは、予想以上に大変な事だった。

いや、そんなことよりも。

「・・・・ルルーシュ」

 シャワーの音に紛れてしまうように、小さく呟く。
 仮面をつけて反逆の波を起こした彼は、それらの記憶を全て消去され、一般的な、優秀な学生に戻った。

 ・・・そう。全てを忘れて。

 悲しみも。
 怒りも。
 苦しみも忘れて。

 代わりに用意された愛に、ものに、満足して。

 ルルーシュはもちろん、僕の事を憶えていた。
 しかし敵としてではなく、親友・・・恋人として。
 
 ああ、もう、何が苦しいのかも、よく分からない。
 ただひたすら脳裏に蘇るのは、この世の全てを憎むような、暗い、暗い瞳ばかりだ。
 今度立った鳥肌を、シャワーはなだめてはくれなかった。

 さっと髪と体を洗って浴室を出ると、脱衣所にはルルーシュがいた。

「ごめん、待たせた?」
「いや。・・・それより」

 ルルーシュは僕の顔を覗き込む。
 ドキリとした。

「ガラにも無いな。何を悩んでる?」

 心底心配してる、という口調。
 人の事をその本人より理解していたりするルルーシュ。
 紛れも無く、ルルーシュだった。

「何にも無いよ。すこし、疲れただけだ」

 ほら、時間無いから、とか言いながら浴室へ背中を押すと、非難がましい目をしつつも、

「無理だけはするなよ」

 振り向きざまにキスをして、浴室に入っていった。
 渇いた唇。
 そこも、前と変わらない。

「ルルーシュ」

 呟きは、届かない。
 涙がひとすじ、頬を伝った。
 
 もう、もういっそ、僕の記憶も消え去ってしまえばいいのに。


 ルルーシュさえ、ルルーシュさえいれば、あとは何もいらないのに。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ