碧玉の箱

□俺はアンタについて行く
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その翌日から歳三は、実家秘伝の“石田散薬”を売るために各地を渡り歩く事になった。

他で問題を起こすよりも実家の手伝いをさせるのが一番という兄弟達の思案だった。


歳三は農家に生まれているが、実の兄の「武士になりたい」という夢の影響からか剣術への興味が小さい頃からあり、我流だがその腕前は良かった。

行商の際も愛用の竹刀を必ず持って行き、道場を見つけては試合を申し込んでいた。


その生活も一年程経ち、歳三がいつも通り行商から帰った時のこと。

のぶに促され歳三は彦五郎宅にある道場に向かっていた。


「帰って早々に、一体何だってぇんだ…」


正直言うと今すぐにでも風呂に入って眠りたい程疲れているのだが、行けと言われては行かないわけにもいかない。


「義兄さん」


道場の入り口にいた彦五郎に声をかけると、歳三の背中を押して中に入るよう促した。


中に入ればこれまで何度か見かけたことのある四十代の筋肉質なおじさんと、自分と同い年くらいの青年が立っていた。


「やぁ、歳三君。行商ご苦労だったね」


歳三に笑いかけながら言うのは、何度か見かけたことのあるおじさんだ。


(何で俺の名を知ってやがるんだ?俺は知らねぇぞ)


「彼は近藤周助先生。牛込からこの道場まで出稽古に来て下さっているんだ」


「君が剣術に興味がある事は聞いておる」


周助は目の横に皺ができる程笑顔を見せたが、好戦的な性格の歳三はただ睨みつけているだけだった。


「あははは!歳三君、顔怖いよ!」


急に笑い声を上げたのは、歳三と同い年くらいの青年だった。

その青年の行動に、歳三の表情は更に険しくなった。

それに気付いた青年はすぐに表情を戻し、歳三の顔をまっすぐに見た。


「俺は島崎勝太。周助先生に天然理心流を習ってもう三年になるんだ」


島崎勝太は天然理心流剣術道場に入門し、近藤周助に養子縁組をされている。

後に近藤勇と名乗り、新選組局長として歴史上に名を残す人物だ。



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