碧玉の箱

□こっちにおいでよ
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「やだなぁ、僕はただ、お手並み拝見しただけですよ!」


「…あ?」


宗次郎の言葉に、歳三は思いっきり眉間の皺を濃くした。

同時に物凄く不機嫌そうな、ドスのきいた声を発する人物が歳三と気付いた勝太は、歳三に駆け寄って肩を掴んだ。


「いてぇっ!」


「歳!来てくれたのか!?遠くて疲れただろ?こんな所じゃアレだから、俺の部屋に…」


「かっ、勝ちゃん落ち着け」


宗次郎は、ここまで心の底から嬉しそうなオーラを全身から発した勝太を見たのは初めてだと感じた。

その瞬間宗次郎から笑顔は消え、見たくないとでもいうかのように目を伏せた。

その間にも勝太は歳三の肩を掴んだまま自室へ案内しようとしている。


「宗次郎、お前も来い」


振り向きざまに言い残され、宗次郎は重い足をゆっくりと動かす。

勝太の部屋に着くと勝太と歳三は向かい合って座り、宗次郎は勝太の隣に座った。


「こいつが沖田宗次郎だ。宗次郎、こっちは土方歳三。前に話しただろ?」


なるほど、と歳三は思った。

宗次郎は客人に対していつもあんな悪戯をするのかと思ったが、勝太から話をされていた上に源三郎が歳三の名前を呼んだから“お手並み拝見”したのだ。

歳三でさえ完璧に気配を感じ取ることのできないというのは、十歳にして凄い腕を持っていると言われているだけある、と実感した。


「お前が宗次郎か。強いんだってな」


「歳さんこそ」


宗次郎はにっこりと笑っているが、その後ろに黒いものが見えるような思いをした歳三は、口角を片方だけつり上げて笑った。


「面白い…やるか、宗次郎」


「怖じ気づいておしっこ漏らさないで下さいね?」


二人の間に漂うただならぬ空気に、勝太はうろたえる事しか出来なかった。


「あははははっ!」


この緊迫感のある空気を壊した見事な笑い声が上がると、三人は一斉に声の主を見た。

そこにいたのは宗次郎くらいの年の少女だ。

いつから部屋にいたのか、全く気配を感じさせなかった。



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