□人魚姫
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『あの時、彼女に助けてもらっていなければ、今の俺はいない』


ねぇじゃあ、わたしが、この唇でしてあげたことを話したら、その心は、ゆらいでくれるの? あの人じゃない、あなたを助けたのは、あなたを一番に見つけたのは、その喉へ酸素を送ったのは、わたしなの。ねぇ、わたしなのよ!

文字を知らないわたし。声のないわたし。伝えられたらよかった。言葉にできたらよかった。たった一言だけ、伝えることを許されるのなら。

わたしは今、言うだろう。両手で持った短刀の切っ先を、あなたに向ける今。



あ、い、し、て、る。



大きく開けた口から零れるのは酸素。あれだけ求めた酸素。あなたと同じところで息をしたかったの。声なんていらないと思ったの。それなのに、言いたくて。たったの五文字を、伝えたくて。




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