□つみびと
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「夜になってきた」


ぼくの手を握りなおしながらあなたが言った。
ぼくは、あなた越しに車窓を覗く。


「青い」


そこには、海底のような空が無限に続いていた。
いつかされた詰問が、ぼくの頭の中で鳴る。

きみが同じことをされたらどう思う。

ぼくが、同じことをされたら。そんなことは絶対にありえないので、考え付きません。でも、もしもこの人にそんな素振りを見つけたらぼくは、その瞬間にこの人を殺し自分も死にます。


「ねぇ」


ぼくはあなたの首筋に額をこすりながら言う。


「もう、1秒だって離れたくないんだ」


ぼくたちは、海底を貫いて猶、落ち続ける。こんなにも身を焦がしながら。

いっそあなたの一部になりたい。いやでも、一部なんかじゃ足りない、全部がいい、あなたになりたい、あなたの全部をあなたと共有したい、ぼくは、ぼくのまま、あなたになりたい。同じタイミングで呼吸し鼓動し感じ愛し死ぬ。そうなりたい。そうなることしか、いやだ。もうぼくにはそれしかない。そうするしか、ないんだ。


「ああ」


あなたは頷く。ぼくのすべてを見透かしたみたいに頷く。
だからぼくは泣きそうになる。でもあなたがここにいる限り、ぼくが泣くことは決してないのだ。





End(2019.8.16)
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