※3Z銀土+男古
 混ぜるな危険ですので、苦手な方は御注意下さい。(10000御礼だというのに申し訳在りません)









「「、だからっ」」


それは甘い空間に突如として訪れた、


「「お前が引けよっ」」







小さく、愚かなる戦争。













「ウチの恋人がケーキ食いたいなんて珍しいことなんだよ。だからココは譲れ、三百円あげるからっ」
「珍しいとか関係ねぇし。しかも、三百円余計に払えるなら違う店で買えよ」


先の台詞は癖のある銀髪に気力のない瞳を外界から隔てる眼鏡、そして無意味な白衣の上にコートを羽織る怪しげな男のものだ。そして後の台詞は季節感を一切無視した学生服の腕捲りのみならず、背中に掴まるこれまた季節感無視の裸の赤子が怪しげな眼光鋭い青年のものである。


「あぁ、最近の若い者はコレだからよ。こういうのは金の問題じゃねぇの、愛しのあの子をどれだけ喜ばせられるかって話なわけ。大人は浪漫を買うんです」
「ロマン買うとか意味わかんねぇし、気持ち悪ぃんだけど。オレはロマンよりケーキ買うからよ」


やりとりから察して頂けるだろうが、この怪しげな二人というべき三人はケーキ屋にいた。それも割と愛らしい、女性に限らず老若男女、幅広い層から人気のある品の良い店にいた。西洋の煉瓦造りに見立てられたのだろう洒落た店の外観を無視した、怒声を響かせながら、だ。


「お前は馬鹿ですか。そのケーキにロマンが含まれてんだよ」
「何かよくわからんがとりあえず、さして甘いモン好きじゃねぇ奴が食うより好きだって言ってる奴が食った方がいいだろ」


中世のメイド服に現代のスーツを取り合わせたような制服を着込んだ店員の笑顔を中心に、馬鹿げた言い争いが始まったのはいつ頃のことであっただろうか。既に迷惑では済むまい、営業妨害の域だ。
それでも、この若く愛らしげな店員が黙々と見守っているのは、先輩の品の良い気遣いを含ませた忠告がまったく取り合われなかった十数分前の出来事があった為だろう。三十分たってもおさまらなかった場合、もしくは暴力沙汰になり始めた場合において通報すること、というマニュアルだけを残し奥に引っ込んでしまった先輩の言い付けを施行する刻を、ただ塗り固めた笑顔のまま待っていた。


「そうじゃねぇだろ、コイツは甘くないケーキなわけ、ソコは論点に含まれないの。国語教師ナメんなよ」
「うわっ、お前センセかよ。ってか、国語教師ならコレをケーキと呼ぶな。パイだからな、ケーキはふわふわしてるヤツだからな」


そんな社会的に見て危ない状況も、店員の可憐なる怒りの微笑みも、この二人にはまったく感知されていないようだ。小学校に入りたての子どもでももう少し高尚な会話が出来るだろうという、何の実りもなさそうな会話を延々と繰り広げている。


「ふわふわとか、まったく今時のガキは貧相な表現力しかねぇのな。ふわふわしかケーキじゃねぇなら、チーズケーキやサバランはどうすりゃいいんだって話だよ、アイツらの身になってよく考えてから発言しろよな」
「いいんだよ別に、ショートケーキ以外あんまり食わねぇもん、オレ」
「お前の食わず嫌いなんか知るかっ、ショートケーキしか食わないなら躊躇わずにコレは譲っとけや」
「いやいや、コレ食いたいって言ったのは古市だし、オレじゃねぇから」


季節感を悉く無視した青年、男鹿辰巳が口にした古市という人名に、矢継ぎ早だった口論が一瞬静まる。白衣にコートの国語教師、坂田銀八の片眉が胡乱げに上がった。


「あん?お前もプレゼント用か?いや、お前の場合は古市って奴のパシリっぽいよな。ダセっ」


相手を苛立たせることだけを目的としているような軽い口調に、元来挑発に対して厭に短気な男鹿の頬が引きつった。


「パシリじゃねぇよ。敢えて言うなら古市がオレのパシリだ」
「はぁ?パシリの為に買い物とかシュールじゃね?ありえなくね?」
「仕方ねぇだろ、パシリ兼恋人だからな。ケーキ代くれたし」


万人が怯えるだろう凄まじい怒気を含ませた男鹿の声音にまったく動じずに、からかう口調のままであった坂田だが、男鹿の発した言葉の中に妙なものを見つけ、ふと大人の顔付きになる。


「お前、その制服石矢魔だよな?つまり高校生だよな?なのに、古市君パシリ兼恋人?ソレ大丈夫?んな若いうちからSMとか止めろよ?センセ超心配なんだけど」


いまいち一般からはズレた心配であったが、その表情はからかいよりも古市という人物に対する大人びた憐れみに満ちていた。女の子に優しくねぇ奴には明るい未来なんて望めねぇぞ、と言葉足す坂田には僅かばかりの教師らしさが感じられたが、如何せん相手は男鹿であった。きょとんとした顔をした後、コイツ馬鹿なの、と言いたげに気怠く坂田の言葉を訂正しだした。

 
「古市は男だってことを差し引いても打たれ強いし、サラサラの銀髪もキレイだし、瞳デカくてキラキラしてるし、たまの笑顔もかわいいから、いろいろと大丈夫だ」


男鹿の自信満々といった言動に、死んだ魚の目、と周囲に表される坂田の眼がこれ以上ない程に死んだ。続いて青筋が浮かぶ。


「何、この子馬鹿なの?可愛いとかちゃっかり惚気てんじゃねぇよ、心配して損した感じになってんだけど、大きなお世話っぽくなってんだけど。何よりサラサラの銀髪とか俺に喧嘩売ってんの?馬鹿なの?まぁ、惚気られてもちっとも羨ましくなんかないけどね、俺の土方君のが可愛いし」
「は?ひじかた?」
「呼び捨てんな、ガキ。俺の恋人の別嬪さんだよ。艶々の黒髪に白磁の肌の和美人さんだから」


先程の男鹿に負けず劣らずといった自信満々の坂田の言動に、何処までも他人への興味が薄い男鹿の表情が歪む。そして、やはり続いて浮かぶのがくっきりとした青筋である。


「アンタこそノロケんなよ、イラっとくんだけど。まぁ、古市のが可愛いから別に何言われてもなんともねぇけどな」
「いや、土方君のが可愛いね。強気な美人の寂しがり屋さんとか、めちゃくちゃ可愛いクーデレラだから」
「くぅでれらって何だよ。古市はアレだ。喧嘩弱ぇけど、肝は据わってるからな、ちゃんとオレが勝つとこ見届けるし、その後いろいろ煩いけど優しいんだぞ。かわいいだろ」
「何か抽象的過ぎてグダグダなんだけど、いまいちわかんないんだけど。なんか古市君がいい子らしいことしか伝わんないんだけど。まっ、土方君は喧嘩も強いからね。ただの美人じゃ済まないから、喧嘩も出来ちゃう美丈夫だから、真っ直ぐ過ぎて危なっかしい所も可愛いんだから」
「なんだよ、古市はなぁ、」
「いやいや、まだ土方君の可愛らしさ語りきれてないから。土方君は、」
「いやいやいや、古市なんかな、」
「いやいやいやいや、土方君なんてね、」
「いやいやいやいやいや、古市なんか、」
「いやいやいやいやいやいや、土方君なん、」
「いやいやいやいやいやいやいや、古市な、」
「いやいやいやいやいやいやいやいや、土方君、」




「「オイ、そこの馬鹿」」




犬も喰わない域まで発展したケーキ争奪戦は二つの新しい声によって一時的に途切れた。先刻までの煩わしい騒ぎが嘘のように静まり、代わりにギシギシとブリキの玩具のような動きに変わる。振り返った先には仁王立ちする青年が二人いた。
 























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