「何を騒いでやがる、いやいや言い過ぎてわけわかんねぇんだよ。いい大人がちったぁ静かに出来ねぇんですか」
「それ以上馬鹿な発言してみろ、ケーキ代も請求するからな」


振り返った先、そこには男鹿とは違い学生服をきちんと身に纏った、艶やかな黒髪と端正な容に涼しい目元が麗しい美丈夫と、坂田とは違い正しくコートを着こなした、絡むことを知らない銀髪と愛らしい容に幼さの残る目元が愛らしい青年がいた。
どちらも方向性は違えどなかなかの美青年であり、それ故に呆れ顔さえ様になっている。様にはなっているが美丈夫、土方十四郎の瞳には澄んだ怒りが宿り、好青年、古市貴之の瞳には生気がないのが気にかかる所だ。周囲を一切視野に入れず、騒がしかったはずの二人もそれに気付いたのか慌てだす。


「土方、違う違う。浮気とかじゃねぇのよ?此方さんが土方君の食べたがってたケーキ譲ってくんなかったからどうしよっかなって、それだけでね?」
「古市がアレ食いたいって言ってたろ?だからわざわざいつもと違う店に来たんだし、買えなきゃなんかいろいろアレだと思ってただけだぞ?」
「ちょ、お前いろいろって、変に省略すんじゃねぇよ。事実そのまま言った俺の方が悪い感じになってんだろうが」
「あ?んなもん知るかよ。そもそも、ケーキ買いに来ただけで浮気疑われそうになってる奴が良い奴なわけねぇだろ。オレはスーパー良い人半歩手前だからそういうことはねぇ」
「お前が半歩手前だろうとまったくスーパー良い人に見えねぇわ、ネーミングセンスを疑うしかないことはさて置き、お前の古市君はパシリ兼用の恋人だもんな。お前がパシリ兼用って言ってた段階で相手に信じられてるか怪しいもんだと思ってたよ。古市君だって心の中じゃお前のことパシリだと思ってるから、恋人よりパシリだと思ってる率のが高いから。だから浮気さえ疑ってもらえねぇんだよ」
「んだと、お前に何がわかるっていうんだよ。これだからセンセって嫌なんだよ、何でも知ってるみたいな如何にもな大人ぶりやがって、面倒くせぇ。っていうかまずチクってんじゃねぇよ。本当のことも言い過ぎちゃダメなん」




「「いい加減にしろよ」」




ケーキ一つ買いに来ただけじゃなかったのか、情けない、と頭を抱えつつ、もう一方の手では恋人の首根っこを掴む姿が厭に様になっていることを泣きたく思う土方、古市の両名は互いに顔を見合わせる。
 

「ほら、解散解散っ。ご迷惑おかけしました」
「こっちこそ大人げなくて悪かったな」


口元に薄く浮かべた苦笑が痛々しいが、お互い様と思い、口には出さない二人の何と大人の対応なのだろうか。間違いなくその対応を見習うべき問題児等は帰り支度を始める恋人におとなしく首根っこを掴まれたままではいるが、不服には不服なのだろう。この場をおさめた恋人へ、控えめになったもののまだ駄々をこねるらしく、妥協案だと言わんばかりのじゃぁ、という声が重なる。


「「コンビニ寄ってジャンプ買って帰りたい」」


まだ懲りていないのか、と言いたげな呆れ顔二つとせめて最後の我儘を聞き届けてもらわん、とする窺い顔二つ、計四つが響いた言葉の重なりに一瞬遅れて気付き、眉間に皺を寄せる。









「「「「「まだ喧嘩し足りないのか、馬鹿野郎」」」」」









最後の最後まで重なった声に、通報しようと受話器を握る女性店員の声までもが重なっていたことは、言及してはならない所なのだろう。





















以上が第一段でした
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