何事にも基準が存在する。と、するならば俺は是非知りたいことがある。
好きの基準とは何か。
誰か俺に教えてくれ。



Because



「はぁ?あんたそんな事考えてたんですかィ?中2病にでもかかりやしたか?」

先日恋人になったばかりの幼なじみが呆れたようにため息をついた。俺はその反応が不満で思わず唇を尖らせる。
恋人の名前は沖田総悟。五歳からの付き合いで今では同じ高校に通っている。

「お前はそう言うけどな、お前の恋愛基準は絶対おかしいぞ」
「何を根拠に言ってんでさァ?」
「好きな奴を殺したいなんて普通思わねぇだろ!」

睨み付けて怒鳴っても総悟は目を細めるだけ。
結局、俺の不満はそこにあった。
恋人になった後も総悟は俺に嫌がらせをし続けた。(小さい頃から総悟は悪戯のプロだと認識している。勿論自分の経験に基づいた結論である)
子供の頃の可愛い悪戯が今では命を落としかねない危険なトラップに進化していた。
何故好きな人間をここまで警戒しなければならないのか。恋人なら抗議しても何らおかしくはないはずだ。

「だってそこに土方さんがいるから」
「は?」

今度は総悟が唇を尖らせた。

「アダムとイブだってお互いがそこにいたから惹かれあったんでしょう?それと同じでさァ。あんたがそこにいるから俺はあんたを苛めたくなるし独占したいと思うんでィ」

総悟の言葉はまるで俺のせいだと主張しているようで、自然と顔が熱くなった。
総悟は時々真顔でとんでもないことを言う。俺はそんなときいつも反応に困ってしまう。本心なのかは知らないが、なるべく控えて欲しいものだ。じゃないと心臓がもたない。

「…アダムとイブはそこにそいつらしかいなかったからだろ。お前は他にも沢山選択肢があるのに」

何で俺なんだと、最後まで言わずに顔を伏せた。俺は何でお前なんだと頭の中で繰り返す。
答えなんて見つからない。子供の頃から一緒にいた。そばにいるのが当たり前だった。
いつからだろう。独占欲が出てきたのは。離れてほしくないと思うようになったのは。

「お前はきっと視野が狭まってんだよ。好きの基準を知らないだけなんだ。だから俺なんかを」
「土方さんは俺と別れたいんですかィ?」
 
俺の言葉を遮る声は少し冷たかった。
まっすぐに視線をぶつける総悟は真剣そのもので、俺はたじろいでしまう。

「違うけど…」
「どこからが好きでどこからがそうでないかって話でしょう?だったら俺はそんな基準必要ないんで問題ありやせん」
「は?」

総悟の手が俺の手を掬うように持ち上げた。あまりにも優しく触れるもんだから驚いて体が震えた。
口元まで持ち上げた手に総悟は軽くキスをする。そこで俺は以前に二人で見た映画を思い出した。
確か告白するシーンは男がこんな風に手の甲にキスをしていた。

「この【好き】は最上級の【好き】なんでねィ。もし基準があったとしてもそんなのとっくに越えてやすよ」

何の曇りもない笑顔に俺は言葉を失った。

ズルい。ズルすぎる。
それじゃぁまるで俺がそこに到達していないみたいじゃないか。





好きの基準なんて知らないけど。
(貴方を好きだと知っている)
























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