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□でも僕は僕は 僕 は、
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「ーひっ、う ああぁあぁああっ」
つん と耳をつんざくような高音で、悲鳴とも嬌声ともとれない声をあげて藤田は達した。もう今日だけで幾度も同じ状況を迎えた藤田のそれは、薄い白濁を申し訳程度に吐き出すだけだった。
見慣れた俺の部屋にはしんとした沈黙の中、藤田の荒い息と虫の羽音みたいな電子音が響いている。
「なあ藤田、またイったの?俺お前に触ってもないのに。とんだ淫乱だなあ、藤田?」
つ、と後ろ手に縛った荒縄から腕、首、となぞらえてやる。それだけで敏感になっている藤田はびくびくと身体を奮わせた。
「っケ、ケンジ…も、許し、て……」
散々鳴いて泣いた藤田の声はもう掠れてしまっていて、それでも許してくれと請う。
ぼろぼろと涙をこぼし腫れた目で見つめて来る藤田に、俺はにこりと笑って吐き捨てた。
「だめ。」
藤田の目が絶望に染まる。
それにも構わずに俺は続けた。
「そもそも何でこんなことになってるかわかってる?」
「う、…はあっ、ぁ、」
「ねえ?」
バイブに翻弄され上手く話せない藤田から、太いそれを一気に引き抜いてやった。また藤田は悲鳴をあげる。
「ほら、抜いてやったんだから答えろよ、」
がっ、と前髪を掴み顔を上げさせる。すると苦しげに呻きながらも健気に藤田は言葉を紡いだ。
「俺っ、俺の……せ、」
「そうだよなあ。お前が異業だからこんなんなってんだろ?」
「う、ふっ……」
「何泣いてんの。そんなお前を構ってやってんのに、何が気に食わないっての?」
「ち、違っ」
「黙ってろよ」
藤田の口に中指と人差し指を突っ込む。苦しそうに咳込むが、歯ぁ立てんなよ と念押しすると一生懸命に舌を這わせてきた。
その必死さがつい数時間前の藤田とリンクする。
「ケンジ、酷く抱いて。」
媚薬やら玩具やら、自ら持参してそう強請るようになったのはいつからか。
満月の次の夜、つまり狼男になった翌晩には必ずと言って良いほど酷く抱いてくれと言うようになった。
そして俺は切羽詰まった藤田の様子に圧倒され首を縦に振るしかできない。
(ああなんて無力。)
いい加減藤田の口内から指を引き抜く。
すると既に半分意識の飛んでいる藤田から声がこぼれ落ちる。
―ごめんなさい、
蚊の泣くような声で、藤田は何度もごめんなさいと繰り返す。
おそらくその謝罪は誰に向かってもいないのだろう。
自分が異業種であることに罪悪感を感じている藤田は自らを痛め付けただただ謝罪を繰り返し、許しを請う。
一種の自傷行為だ。
(藤田は悪くないのに、)
おそらく町の住人や同級生、もしかしたら親類からも忌み嫌われ虐げられてきたのかもしれない。
可哀相な藤田。だからせめて
(気が済むまで付き合ってやる。そんで、できれば守ってやる。)
いつか、お前の自傷がなくなったら、そしたら、起きてるお前にちゃんと言ってやるよ。
意識を飛ばし死んだように眠る藤田に軽く口づけて囁いた。
でも僕は僕は 僕 は、
(藤田、あいしてる)
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