他
□青
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お互い第一印象はあまり良くなかったと思う。
僕としては自分の空間にずかずか入ってこられて気分が悪かったし、向こうも初対面の年下に生意気な口を聞かれて不満だっただろうし。
(…じゃあ今は?)
「……」
つい、と寝転がったまま裸足の指で健二さんの腰をつついた。
それに気付いた健二さんから何、と聞かれるが僕は答えない。そもそも意味なんてないから答えようもない。
それを理解してか否か、健二さんはまたテレビに視線を戻してしまった。
(…どうなんだろう)
初対面時と変わらずほとんど話さずコミュニケーションをとらない僕は、今彼にどのように思われているのか。そんなことばかりがぐるぐる脳内を廻っている。答えは出ない バグみたいだ。
(だって仕方ないじゃないか)
ラブマシーンにやられた時にまだ負けてないって言ってくれたこいつに惚れてしまったんだから。
惚れた方が負け
って、正にその通りだと思う。勝つことが好きな僕は正直面白くないんだけど、この際そんなことはどうでも良い。
こちらに向けられた背中をぼんやりと見つめる。僕と違い広い背中。
そっと手を伸ばすと、あと数センチの距離で届かなかった。
「――、」
なんだかそれが無性に悲しくなって、なりふり構わず彼の腰に抱き着く。
案の定うわっ、と驚きの声が上がったが、今の僕に相手のことを考えてる余裕なんてなかった。
どうしたの?と声をかけてくれる。優しい声色が心地好い。
なんでも、と小さく返すが僕の腕は未だ離れない。
でも やら えっと やら状況を理解しかねている健二さんを他所に僕は僕でいろいろ考えていた。
夏希姉のこと、
年のこと、
性別のこと、
親戚、親、妹のこと、
僕と彼とを隔てるであろう全てを思うと眩暈がする。
けどやっぱり好きな気持ちはどうしようもない。
だって布越しだっていうのに健二さんに触れてる腕があつい。夏の暑さとまた違った熱を帯びていて、正直のぼせそうだ。
ごめん、夏希姉
と心の中で小さく呟いてから、意を決して口を開いた。
「―僕、健二さんのことけっこう好きだよ。」
「え、」
驚きの声が洩れる。
僕は思いの外掠れていた自分の声に驚いた。
顔を上げずにいるため彼がどんな顔をしているかわからない。ああ、もう心臓が煩い、黙ってろ。
「えーっと、ありがとう。僕も佳主馬くん好きだよ。」
「えっ、…」
存外簡単に受け入れ肯定した彼を見れば、にっこりといつもの笑顔を返してくれた。
能天気なその表情から僕の真意が伝わってないことがわかる。頭はやたら良いくせにどうしてこう鈍いかな!
(もうどうにでもなれ!)
少林寺で身につけた素早さで健二さんとの距離を一気に縮め、僕の唇を彼のそれに押し付けた。
そこからどうしていいかわからず少し固まったあと、そっと唇を離す。離れる瞬間にちゅ、と小さく鳴ったリップ音で、なんだか急に恥ずかしくなった。
「か、ずま……くん?」
健二さんが自分の唇をなぞりながら不思議な顔をして僕を見てくる。
当の僕はと言えばもう頭の中はぐちゃぐちゃで、妙に煩い心臓の音だけが耳についた。
「こういう意味で好きなの。……ケイベツする?」
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