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□辿り着いた先の虚無
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ふわふわ

ふわふわ と
先程から俺の意識は宙へ浮いているように軽い。気持ちいいとも悲しいとも違う、虚無。そこにはたくさんの感情が混ざり合っているようで、実は何も無かった。それでも今寝転んでいる天国の草原に合っていると思う。


ごり


ふいにこの雰囲気に似つかわしくない音が耳に入る。いや、似つかわしくないのは音だけではない。
今の俺の格好はと言えば、天国の草原で、馬乗りになった鬼男くんに首を絞められている という、およそ平和とは掛け離れたものなのだから。



く、と首にかけられた褐色の両手にさらに力が込められる。それに再び骨は悲鳴を上げ、静脈動脈はさらに塞がった。
痛々し気であろうその状況とは裏腹に、俺の意識はさらに高く深くふわふわと遠退いていく。


死がすぐそこにある。
それこそ手を伸ばせば届くところに。

しかし未だ何の感情も浮かぶことはない。
悲しいとも嬉しいとも憎いとも、何も感じることなく闇が目の前までやってきた。
俺を痛め付けている張本人は今にも泣きそうに顔を歪ませている。嬉しいのか悲しいのか。俺とは真逆の、色々な感情の混ざり合った顔を、虚ろな目で見上げる。彼の後ろの青空が、妙に映えて綺麗だった。





ごきん
と、骨が圧に耐え切れなくなった音を、意識が途切れる一瞬前に聞いた。

















「…大王、大王」


鬼男くんが俺を呼ぶ声が聞こえて、胸がぎゅうっと締め付けられるように感じる。ああ、彼はまた悲しむのだろう。

目を開き視線を鬼男くんへ向けると、案の定彼の表情は絶望の色を示した。
ごめんね、と少し痛む喉から声を零すといいえ、と返ってくる。
上半身を起こして銀の頭をそっと撫でた。


「鬼男くん、そんなに悲しまないでよ」


俺まで泣きそうになるでしょ、と小さく笑うと泣いていませんよと涙声で言われた。


「仕方ないよ。死ねないのは仕方ない。俺の罪だもの。」


「………っ」


「俺のことを想ってくれる人がいるだけで十分幸せだ」


「それでも、」


ふいに叫んだ彼の右手が、俺の左手に重ねられた。


「それでも、僕は貴方に幸せになってほしい。だって、あまりにも可哀相だ、」


貴方を救いたい、と彼は呟く。
重ねられた右手は僅かに震えていた。
その手をぎゅう、と握る。


「心遣いはありがたいけどね、鬼男くん。どう足掻いてもそれは叶わないよ。所詮冥界の王と一介の獄卒だもの。」


ね、と笑うと鬼男くんはさらに辛い表情を見せた。可哀相だが仕方がない。俺のせいで苦しむなんてしてほしくないもの。

なんて、いかにも人情家ぶってみても、己の心情までは騙せるはずもなく。
ずるりと奥深くから這い上がってくる感情に、実は気づいていた。



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