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□僕と君との諸々。
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何かが破裂したような音を立てたあと、俺の頬が朱く染まった。

「っ、」

じわりと口内に鉄の味が滲む。歯をぶつけて切れたであろう粘膜をそっと舐めるとチリッと小さく痛んだ。
それなのに原因であるケンジは悪びれた様子もなく、むしろ俺を見下すような目でこちらを見ている。
抵抗しようにも両手両足はガムテープでぎっちりと固定されていて全く動かせない。かろうじて指が数本動く程度の力で縛られてもう長時間経つ。四肢の感覚はだいぶ薄れてきていた。

「ケンジ、痛い、」

震える声でそれだけをやっとの思いで伝えると、ケンジは心底嬉しそうに笑う。乾いた笑い声に背筋がぞっと震えた。

「そう、藤田 痛いの?」

ひとしきり笑った後の一言に、だからそう言ってんじゃん と心の中でつっこみを入れてからこくりと頷く。
痛みにより生理的に出てきた涙のせいで視界がぼやけた。そんな泣かなくても、と微笑むケンジに、泣いてねえよと返す。
するとうそつき、そう言ってやたら白い右手がこちらに伸びてきた。

「いいよ、もっと泣いて。痛いでも憎いでも殺したいでも、何でもいいから頭ん中に俺しか入れないで。」

殴られたばかりでひりひりと痛む頬をつ、となぞられる。じわじわ迫りくる痛みに耐えながら、内心またかとため息をついた。

「ケンジ、今度は何が嫌だったの。俺特になんもした覚えがないんだけど?」

初めて殴られた時のことを思い出す。確かきっかけはクラスメイトの女子からの、人生初の告白だったかな。
危うく刃物で流血沙汰になりかけたあの時を思えば、殴られているだけの今はまだ随分と安全地帯なのだろうか。

などと考えていると、また先程と同じ場所に激痛が走った。前言撤回、殴られるのってすげえ痛い。

「何考えてんだよ藤田、」

見ればケンジの目は随分と冷たいものになってしまっていた。
口内にいい加減溜まってきた血を吐きだす。ケンジの部屋のカーペットが汚れようともう構ってやんねえ。

「殴られる理由がないから怒ってんだよ俺は。なあ、ケンジ、」

「理由がないって?何とぼけてんの藤田。」

ぎりぎりまで顔を近づけて耳元で囁かれる。うっかりすると聞き入ってしまいそうな低音に導かれて思考を巡らすと、心当たりが一つだけあった。

「…もしかして、休み時間にカラオケ誘われたのに怒ってんの?」

そう行って見ればケンジの表情が当たりだと伝えてきた。
はあ、とため息をつく。



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