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□悪酔い
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俯いていた俺の視界が180度変わって見慣れた天井が広がった。
けれど安っぽいアルコールが大量に巡っているため身体も頭もうまく動かない。だから今鬼男くんに押し倒されててそういう雰囲気が流れてるけど、呑まれてもいいかななんて思ってる。
好きとか愛とかそんなキレイなもんじゃなくてただ快感に従順なだけなんだけど、良いじゃない別に。気分良く酔って鬼男くんが居て、その上気持ちいいなんて最高。
「…ん、あっ、」
着物の合わせ目から入ってきた鬼男くんの指が予想以上に熱くてつい声が洩れた。相当酔ってるな、これ。少なくとも上司のおっさん抱けるくらいまでには。
(…まあ、俺も人のこと言えやしないんだけど。)
ゆるゆると鬼男くんの指が登ってくる。久々に感じる背骨に響くような鈍い快楽が、少し怖くなって自分の上を這う手をそっと妨げた。
俺の嫌がることはしないいつもの鬼男くんは理性と一緒にどっか飛んでったみたいで、眉間にしわを寄せた鬼は俺の右手を容易くシーツに縫い付けた。
俺の身体を我が物顔で這い纏わる手は止まらずに、相変わらずのゆっくりとした速度でじわじわと快楽を生みながら頂上を目指す。
褐色の指が少しはねた後ろ髪に触れるころには、プライドやら羞恥心やらはどろどろに熔かされていて、俺はただくぐもった声を漏らすだけだった。
ここ数百年の間は、与えられた権威の影にちらつく責任感やら自尊心やらで人を抱いたこともなければ、まして抱かれたことなんて一度も無かった。
久々の甘い空気に早々脊髄まで侵されている気がする。
でも何百年も我慢したんだし、そろそろほだされても良いよね、なんて自分に都合の良いように働く脳みそは人間の頃から全く変わっていない。
「なにかんがえてるんですか、」
気が付くと不機嫌そうにしかめた顔が目の前にあって驚いた。
さすがは鬼、呂律の回っていないふわふわした口調でも目力でしっかりと問い詰めてくる。
それを「勿論君のことだよ」と歯の浮きそうな言葉で返してうやむやにすると鬼男くんの首に腕を回した。
ちゅ、と小さな水音をわざと立てた口づけで鬼を誘う。
すると箍の外れた彼は深く追求しようとせずに指の動きを再開させた。
アルコールのせいか、性急にことが進む。
途切れる息を無理矢理飲み込んで若いなあ、なんて余裕ぶると小さく舌打ちをした次の瞬間、突然指を啣え込まされた。
「いっ……あ"ぁ、な…っに、突然、っ」
中指一本だけとはいえ、触れてもいないそこにいきなり突っ込まれたとなれば痛みは尋常ではない。
「あんたが余裕ぶっこいててむかついたんです。」
「そりゃあ女役やってんだから精神面でくらいは優位に立ちたんだよ。」
「男としてですか?それとも"閻魔大王"として?」
「え、」
途端俺の中に埋まっていた指が思い切り曲げられた。
突然の激痛と少しの快楽に声にならない叫びをあげる。
途端溢れた涙でぼんやりとした視界ににこりと普段ないくらい爽やかな笑みを浮かべる鬼男くんが写る。
こういう時にだけこんな顔するんだから質が悪い。
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