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□なくなく
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自分の声が嫌いだった。
変声期は当の昔に過ぎたと言うのに周りよりも高い声。
声だけじゃない。女顔も、名前も、とにかく追い求める理想とは真逆の女みたいな自分が嫌いだった。




「太子、」
名前を呼ぶ。僕の嫌いな高い声で、愛しい彼の名前を呼ぶ。しかし先程伏せられたばかりの瞼は開きそうもなかった。

「……」

太子が起きないことに少し調子に乗った僕は太子の顔にそっと手を伸ばした。
頬をするりと撫でても太子は気付く様子もない。
頬に触れている自分の指は、やはり平均よりもやや細い。それから続く腕も鍛えていて筋肉が付いているとはいえまた然り。
始めはこの身体を際立たせるような洋服を渡してきたこの人を嫌っていたこともあったかと、微笑ましく思う。


「妹子」
声が聞こえる。聞き慣れた自分よりも低い声。

「好きなんだ」

「どこに好きになる要素が」

「良く通る声とか」

(ただ高いだけじゃないか)

「小綺麗な顔とか」

(綺麗なんて言われても嬉しくありません)

「それでも強いところとか」

(太子が弱すぎるんですよ)

「影で頑張ってるところも」

(………)

「妹子が好きなんだ」

「……どうも。」


一言、ようやく答えられた時の僕の顔は相当紅かっただろうと思う。
太子に、他人に初めて好きだと言われて、少し自分が好きになれるような気がした。太子を好きだと感じられる自分を少し好きになれるような。

「それなのに」


触れている頬にはたはたと涙が落ちる。
それでも太子は目を覚まさない。


「太子がいなくなって、僕は、どうしたらいいんですか、」


依然として太子は動かない。手の平に伝わってくる温度がだんだんと冷たくなっていって、焦燥感が僕を襲った。

「太子、太子、たいし、っ……」

(好きだと言うならいくらでも呼びます。笑えと言うならいくらでも、だから)

「置いて、逝かないで下さ、っ」

縋るようにうずくまると、いつの間に入ってきたのか、イナフ と竹中さんが僕の肩に手を置いた。
伝わってくる生人の体温が一層太子の死を引き立たせる。太子はもう動かない。

(嗚呼、こんなことならもっと素直でいれば良かった)


ありがとうございました

貴方のおかげで自分を好きになれた気がします

大好きでした

さようなら



どれだけ声を張っても、もう届くことはないけれど、

「あいしてます」

後悔と自己嫌悪でいっぱいになりながら、そう一言呟いた。









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