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□哀翫
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「妹子、今日空いてる?」

最近月が綺麗だしさ、酒でも呑もうよ。
なんて、端から聞けばなんでもない上司からの飲みの誘い。でも僕からすればそれは最低な夜の始まりを意味していた。
しかしいくら嫌でも拒否権を持っていない僕に出来る返事はひとつだけ。


「…わかりました、夜、伺います。」


夜、という言葉を強調させて太子に確認をとる。万が一の思い違いを期待して。だが太子から否定の声が聞こえないあたりその万が一はなさそうだ。僕はまたはあ、と心の中で大きなため息を吐いた。






―暗転






「失礼します、」
そう一言添えるものの、勝手知ったる我が家のようにずかずかと太子の部屋に上がり込んだ。
ぱしんと音を立てて襖を後ろ手に閉めると、窓際に座っていた太子の視線が月から僕へと移る。


「よく来たね、まあ楽にしててよ。」

言われなくても、と布団を座布団代わりに足を崩して座る僕に、太子は乾いた笑みを零した。


「何、誘ってるの?」


「…別に。早く終わらせて帰りたいだけですよ。」


「あはは、いつも終わると同時に意識飛ばしちゃって帰れた試しなんてないくせに。」


太子が目を細めて嘲笑いながら強がりさんだね、なんていうのを聞きながし僕は太子との距離を縮めていった。
その距離10センチというところまで詰め寄ると、窓の縁に座っている太子を見上げる状態で誘う。

「ね、早くしましょう?」


相手はにこり、否にやりと笑って僕を押し倒してそれに応えた。

左手は布団に縫い付け、空いている右手で頬に触れる。その手がゆっくりと降下してきて赤のジャージのファスナーへたどり着くころには深く口づけられていた。
舌を絡め取られる感覚に必死になっている間に上着は取り払われる。
以前下手に動いて機嫌を損ねたことがあるのでそれ以来したいようにさせることにしている。
僕のすることはこの人からの刺激に応えること。満足するように。何故ならこの人と僕との間に愛なんて甘ったるい感情は存在していないからだ。


「…妹子、考え事?随分余裕だね?」


「っは、…貴方のこと、です、よっ、」


「あはは、どうしたのリップサービスなんて珍しい。まるで恋仲みたいな台詞だね。」


合わせていた唇をあっさりと離され、途端に大量の酸素が肺に入ってきて少し噎せる。それすら気にしない様子の太子は僕の耳を緩く舐めた後、脳みそに直接吹き込むような声で囁いた。

「じゃあ今日は恋仲らしく甘い夜にしようか、」


「っ、」


目の前が真っ暗になる。甘く擬似的な愛を受けながら抱かれるなんて御免だったのに。
それでも、嫌?と聞かれて素直に嫌ですと言えない自分の性格に嫌気がさす。

反抗しない僕に気を良くした太子は早速胸に手を伸ばしてきた。
つう、といつもはされることのない優しい手つきで触れられ思わず身震いする。始めは触られても何も感じることはなかった胸は、今ではすっかり刺激を感受するように変えられてしまっていた。
右を指で、左を舌で弄られて、もどかしい刺激が腰と脳内に響く。決して大きくはない、しかしじわりじわりと蓄積される快感に下半身が疼いた。


「った、太子…も、いいです、からっ、」


「ん……なーに、妹子?どうしたの?」


「触って…くだ、さ、っ」


太子に抱かれ続けた身体は鈍くなるどころか敏感になっていくんだから質が悪い。おかげで胸だけの刺激に焦れた僕は我慢できずにそんな台詞までいう始末。しかし太子は羞恥心を我慢してやっとのことで吐き出された言葉を軽く突き放した。


「触って、ってどこを?」


にやりと嫌な笑みを浮かべて聞いてくる。わかってるくせにわざわざ言わせようとする性格の悪さが憎くて仕方ない。
それでも僕が頬を染めて唸っている間にも微弱な快感は与えられ続けているわけで。とうとう快感に溶かされた脳みそは羞恥を隅に追いやった。
下、なんて言っても意地悪を貫き通されるのはわかっているので、震える両手で太子の左手を掴んで自身へと導いた。それに満足したのか、太子は既に濡れていたそこを意地悪せずに追い詰める。


「っ……あ、っうぁ、太…、子っ」


太子は先程とは打って変わって強い刺激を与えてくる。すると弱い快感に焦らされ続けた身体はすぐに限界を訴えた。


「はぁっ…た、太子っ……僕、もっ、」


イきそうです、と言いかけたところでちゅっと短く太子に口づけられ言葉は半端なところで途切れた。それと同時に先程よりも強い快感を与えられ、目の前がちかちかする。


「…愛してるよ、妹子、」







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