日和
□遺言
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絞めて、塞いで、貴方の手で
-遺言-
「…嘘、」
此処は太子の私室。
太子と付き合うようになってよく訪れるようになった見慣れた部屋。
目の前には何時もと様子が違う見慣れない太子。
昼だというのに布団に潜っており、どこか虚ろな目をしていて息も荒い。
一週間前に会ったときにはぴんぴんしていたのに、この変わり様はなんだ。
(そうか、だから馬子さまが呼びに来たんだ…)
仕事中の妹子を呼び出したのは馬子さんだった。
太子が呼んでいるから来てほしい、と。
「太子、どうしたんですか。何があったんですか、」
「病気だよ。」
「!」
妹子の問い掛けには、いつ部屋に入ってきたのか、馬子さんが答えた。
「こんな男でも摂政だ。なんとかならないかと手を尽くしたんだが…どうにもならんらしい。」
「え、」
突然の言葉に困惑する妹子をよそに、馬子さんは続ける。
「それでどうにか最後に望みだけでも聞き入れてやろうと思ってな。」
「それ、で、僕ですか…?」
「ああ。死ぬ前に二人で話がしたいと。すまないがこれが最後だ、付き合ってやってほしい。」
「…は、い」
妹子が弱々しくも了承すると、馬子さんは少し寂しそうにもう一度すまない、とだけ言って部屋を出た。
(どうにもならない、って、言ってた)
妹子は戸惑いながら、太子の横に座り話かける。
「太子、死ぬんですか、」
太子からの答えは返ってこない。
ただただ、荒い呼吸音だけが耳につく。
ねえ、と妹子が太子の横に座り、手に触れると視線だけを妹子へ向け、弱々しく笑った。
「っ…」
その笑顔が、手から伝わる温度が、死を感じさせる。
「た、たい、し…」
涙が溢れる。
泣くのを必死に堪え、名前を呼んだ。
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