日和

□衝動
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好きすぎてしんじゃいそう









-衝動-












「…は?」


藤田が頭上にはてなマークをたくさん並べて混乱している。
ここは俺と藤田以外誰もいない教室なので藤田のそれは明らかに俺のせい。


「好き。」


俺は混乱の原因になっていた言葉をもう一度藤田に突き付けた。好き。すき。ライクとラブが言い分けられていないこの言葉はどちらともとれるけど、必要以上に相手に気を使う藤田はそれを感じとれない程鈍感ではない。
そして藤田はそれを分析・判断してしまった為に今このような混乱状態に陥っている。もちろん俺もそういう意味での「好き」だったので藤田は間違ってなんかいない。正解。ただひとつ間違いがあったとすればそれはこの感情を口にしてしまった俺にある。
俺と藤田の関係は親友。友達よりも仲良しだけど恋人って言われるとそこまで相手に気を許したわけでもない、そんなポジション。少なくとも藤田にとって俺はそういう位置の人間。
そう、あくまでそれは藤田にとってはの話。
俺自身この感情に気付いたのはひとつき前。携帯カメラ越しの藤田を見てきゅん。あれ、なんだこれ、みたいな。
そっから藤田と話してても意識して携帯向けても意識して家帰っても意識して。そしてもうここまでくればまるで恋じゃないかという結論に達したのがその一週間後。同性という壁が立ちはだかっていて断定はできないが、むしろはっきりしない分気持ちは大きくなる一方で。
つまりはあやふやで俺自身にもはっきり分からないこの感情を藤田に伝える気は毛頭なかった。だから口をついて出た好きに困惑しているのは俺も同じ。

お互い混乱しているため気の利いた言葉なんて出てくるはずもなく。
嫌な沈黙が俺と藤田の間に渦巻く。
握り締めた右手がかすかに震えるのを止められないのが煩わしかった。


「……」


「………」


「………あ、」


この重苦しい沈黙を破ったのは藤田の声

ではなくやけに煩い教員からの放送だった。


「只今から校舎の施錠に回ります。用のない生徒は――」



突然の音に二人して驚いたが空気を読まない教員の声は先程までの気まずい空気を掻き乱してくれたのでその点は感謝。


「…帰るか。」


「え、」


先程の空気を甦らさないようにできるだけいつも通りを装う。
外真っ暗だな、なんて言いながら鞄を肩にかけると慌てて後を追ってくる藤田。それを見て一安心して、一緒に暗い教室から出た。

明々と照らされる廊下を歩いていると、放送に掻き消された藤田の声を思い出す。
声の続きを最悪なほうにも最良のほうにも捉えられて、やけに煩い心臓の音も気にならないほどだった。


















-衝動



(俺が「親友」というポジションを失うまであと3分と48秒。)




















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