日和

□校庭のど真ん中で
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普段はそんな恥ずかしいこと死んでもできませんけど!





-校庭のど真ん中で-













「…暗い。」

この空間が怖くてたまらなくなり紛らわすようにぽつりと呟いた。
しかしそれは恐怖を紛らわせるどころか暗闇に吸い込まれてしまったので逆の効果しかもたらさない。

時計は9時の少し前を指している。そんなに遅い時間じゃないが街から離れた学校は不気味なくらい暗くて静かだ早く帰りたい。突然なんか出そうだな、とふと思い付いてまた怖くなる。…学校、てゆう建物が悪い。だってなんか怖いもん。


隣を見ると何でもないように歩いているケンジが携帯をいじっている。俺がこんなにびびってんのに涼しい顔をしてるのがなんだか悔しくてじっと見て粗探し。表情とかしぐさとか。

「なあ、」

「っ、な、何っ!!」

突然こちらを向き話し掛けてくるケンジに驚き声が裏返った。情けないってゆうかさらに悔しい。


「?…校庭つっきろう。その方が早い」

「あ、ああ…そ、だな!」


ケンジは俺の態度に若干違和感を感じていたようだったが追求はしてこなかった。ありがたい。そうゆうとこが好き、なんて、絶対言わないけど。


体育館の横を通って数段階段を下りていざ校庭へ。

校庭の端から端までなんて多分距離にすれば3、400mくらい。短い。でもその短い道のりも月明かりしか照らすものがなければ先が闇に覆われていて永遠続いているように思える。


さっきまでの恐怖が甦る。が、男の意地とゆうか、そこは怖いなんて女々しいこといってなれない、と拳にぎゅっと力を込めて耐えた。

ざりざりざりざり、

無言で歩いているので靴が砂を踏み付ける音だけがその空間に響いていた。

(あと半分くらい、かな…っ、)

そんなことを考えていた矢先、校庭のちょっとしたくぼみに足を取られ躓く。
何とか踏み止まり大事には至らなかったものの心臓はばくばく煩い。
どじった、なんて若干照れながら前を見るとさっきより小さくなったケンジの携帯の明かりが見えた。

多分タイミングが悪かったんだ。いろいろ。

それがものすごく悲しく寂しく思えて俺はケンジの背中目掛けてダッシュ。
本気で走るなんてここ数年体育でもしてないってのに。

どんっと勢い良くケンジに飛びつき抱き着く。
対象からはうわ、と驚いた声。
どうしたんだよ、と言われても答えることはできない。俺にだってわかんねーもん。いったいどうしたんだ俺。
考えても何も浮かばない頭ん中はもうぐちゃぐちゃだし心臓はうるさいしもうわけがわからん。
そんな中唯一浮かんだのが数時間前の夕日と校舎をバックに少し焦った表情のケンジの愛してる。

仕方なしにとりあえず好きだ、って言っといた。それしか思い浮かばねえんだから俺に選択肢はない。

心臓よ落ち着けと願いながら口からはまるで呪文みたいに好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好き好き好き好き。


ケンジはこれをどうとらえたのか、背中で好きを連呼する俺の右手を握って俺もだよなんて返してくる。そういう意味じゃなかったのに恥ずかしいやつめ、なんて。

俺も同類だから言えやしないけど。


青春とでも思って貰うとして。



広い校庭で小さくくっついている俺たちを月だけが照らしていた。






















-校庭のど真ん中で




(愛叫んじゃったな、藤田)
(お前もだろ、バカップルが。)

(いやいや片割れ。)

(甘すぎ、コーヒー買ってこ。)

(無糖?)

(…微糖)

(あは、そっか)













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