日和

□纏わるそれに熔融され
1ページ/1ページ








-纏わるそれに熔融され-











浸蝕される。




















外はもう真っ暗で、家のすぐ前の道にもひとっこひとりいない時刻。
高々と昇った月にほんのりと照らされている自分の脚が目に入り、まるで月に見下されているようだと感じた。

普段ならばそんなこと考えつくこともなく情緒を思うのだろうが、その光に醜態も密事も恋心も暴かれているようで、後ろめたさが湧いたのだと思う。
しかし深層心理での罪悪感ではどう足掻いても目先の快楽に勝てるはずはなく、それは押し寄せてきた快感と僅かな水音に飲まれて消えていった。


「………っはぁ、あっ…太、子…ッ、」

熱い吐息と共に口からついて出たのは数時間前まで一緒にいた上司の名。
それと同時に自身を行き来する手の速度を速めれば脳が融けるような快感に襲われる。


ぎゅっと目を瞑ると瞼の裏側には見たこともない厭らしい笑みを浮かべた太子。その空間に居いない幻影は侮蔑の言葉を吐きながら妹子を攻め立てた。
嫌、と漏らす言葉とは裏腹に手は自身を焦らすように動く。端からみればひどく滑稽な状況だろうが融けきった脳は最早それを感じる事もなかった。

限界が近づくに連れ身体と共に熱くなっていく想いに身を任せ自身を追い込む。その最中、ふわりと鼻腔を擽った愛しい想い人の移り香。
それによりいっそうリアルになった幻影に我慢が効かなくなった。

もとから高めの声がさらに高くなるが構わず母音とその人の名だけを必死に紡ぎながら欲を吐き出した。

荒い呼吸と程よい疲労感、はあ、と一息ついてゆっくり瞼を開くとそこに太子はいなかった。

その事実に先程まで熱に浮されていた身体と心はすうっと熱を失う。
虚しさと絶望感が手と内股に伝う白によってなおいっそう引き立てられ泣きたくなった。

(…馬鹿みたいだ、)


自分一人が勝手に浮かれて落ち込んで、相手は今頃自分の事など欠片程も思ってはいないだろう。
全て自分の独りよがりで、片想いで、一方的な気持ちがひどく悲しかった。


倦怠感から右手と内股の白を放置して綿に沈み込む。抑えきれなくなった感情が目から溢れ出てはらはらと零しているのを、原因である移り香に、不覚にも慰められたような気がした。

















-纏わるそれに熔融され、



熔かされた想いは僕と心を蝕んでいった。










 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ