日和

□引かれた薄紅色に惹かれる
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だって綺麗、











-引かれた薄紅色に惹かれる-












あれ、と閻魔は一度書類に移した視線を再び秘書へと戻した。
視線の先には資料整理をしている有能且つ辛辣秘書・鬼男。細かくいうと視線はその秘書の唇にあった。肌と同じく色素の濃いそこにはよくよく見て分かる程度の薄紅色が乗っている。


「…どうしたの鬼男くん、とうとう女装趣味にでも目覚めたの、それともヴィジュアル系でも目指してんの」

「…は?」

思い切って聞いてみると怪訝な顔をされてさらに頭大丈夫ですかとまで言われた。辛辣てかむしろ失礼だな君!


「だって唇…」


「…ああ。」


そこまで言ってやっと俺の言葉を理解したらしい彼は少し気恥ずかしそうに答えた。


「…リップ塗ってるんですよ。僕今唇ぼろぼろなもんで。」


「…へぇ?でもなんで色付いてんの?やっぱ女装趣味…」


「違う!断じて!!あれです、同僚の女の子にも唇荒れやすい子がいて、これが1番効くと聞いたのでこれにしただけです!決して、女装とかそういう趣味に目覚めた訳じゃありませんから!!」


女装否定は大事なことなので2回言ったようだ。
一息で捲し立てるように言った彼は若干息切れしている。普段冷静なこの秘書がこれ程まで焦っているのが珍しくてついうっかり可愛いなんて思ってしまった。改めて彼の唇に乗っている薄紅色を見る。淡いそれは色と同時に艶も出していた。もともとの目的が乾燥を防ぐことなのでそこが重要なのだが、いつもと違う彼を見ていると、急に何か黒いもやが胸にかかったような気分になる。


「っ、」


自分ではない誰かによって変えられてしまった部位は酷く閻魔の心を焦がした。
どうにか自分の色に染め直さなければ。
そんな焦燥感に襲われ、閻魔は鬼男に腕を伸ばす。
早く早く早く、


途端にがつ、とエナメル同士がぶつかる音が部屋に響いた。
閻魔は遠くで聞こえたその音も、唇の鈍い痛みも、さして気にせず必死に鬼男の唇に口づける。
触れて舐めて甘噛みして、別の女に浸蝕された部分を奪い返す。
ああ俺って独占欲強かったんだあ、なんて頭の隅で冷静に考えながら。


少し経ってそれに満足すると、呆気ないほどあっさりと唇を離した。
突然唇を奪われた当人は訳もわからずに呆れ返った表情。


「…何突然発情してんですか、変態大王イカ」


「なっ、犬猫みたいにいうなよな!発情なんかしてないんだから!リップのピンクが綺麗だったからついってだけで!」



「いや意味わかんねえよ。ついキスするってなんですか。しかも唇切れてもはや真っ赤だよ鮮血に染まってるよ」


「あ、ほんとだ。鬼男くん唇やわだねー」


「お前の唇もな。」


「え?あ、ほんとだー切れてるや」


そっと唇に触れた中指の先には鬼男のそれを彩っているのと同じ紅。
そんな傷さえお揃いだと思うと嬉しかった。


「…何笑ってんだイカ」



「別にー?紅、綺麗だね!」




























-引かれた薄紅色に惹かれる



(とりあえず大王、僕のでよければリップ使って下さい。)

(え!?)


(え?)



(か、間接ちゅー!)照


(今更何照れてんだ…)恥











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