日和

□それを模した内出血
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数分で消える。











-それを模した内出血-











ふと気を失ったように眠る男の方を見る。
明らかに肉の足りない背中をこちらに向けて寝ているので背骨の凹凸がやけに目についた。あんだけ動いてよく骨折しないなあなんて思ったり。


(…あ、)



真っ白なその肌に残したはずの自分の痕跡が見当たらない。
確かに付けたはず、と肩甲骨周辺を目を凝らして見てみるが白いだけでなんの色も見当たらなかった。

こういう時に彼は神なんだと実感させられる。自己治癒能力が異常に高い、死なない死ねない躯。
くっついているはずなのに、遠くて届かない大王。

愛しくて付けたキスマークもこの身体にはただの内出血として処理されてしまった。消された跡と自分が重なって途端に怖くなる。


いつかは僕も貴方の中から消えていくんですか

さも始めから居なかったように

簡単に






こんなに愛してるのに、





言えば貴方はそんなことないよ俺も大好きだよ、なんて言ってくれるんでしょうね。

今は、



考えだすと止まらなくなってはらりと目から一滴落ちてきた。鬼のくせに、


ぐちゃぐちゃ考えて、結局どうしようもならないなら開き直れば楽だと気付いたのはもう何百年も昔のこと。

そして今夜もまた寝ている大王に唇を寄せる。消えたそれがあったであろう肩甲骨の少し左上に、何百個目のそれを模した内出血。


強く吸い付くとひくりと大王の身体が動いた。
起こしたかな、と唇を離して様子を伺うがそれっきり動かない。付けたばかりの"怪我"を覗くと赤く色付いていて綺麗だった。

それを指でなぞりながら愛してますよと呟くと、君も飽きないねと返ってきて驚いた。


寝ていたとばかり思っていた大王がくるりと身体をこちらに向ける。僕はなんだか急に気恥ずかしくなって顔を背けた。


「こんなの、すぐに消えちゃうのに」


大王は既に薄くなったそれに触れながら言う。
関心の無いような口調で言われて、胸がずき、と痛んだ。


「我ながら女々しくて嫌になりますけどね。でもどうにか僕の存在した証を貴方に残したくて。」


本当、自分の乙女思考加減に嫌気がさす。それを告げると大王は呆れたように笑いながら本当にね、と返してきた。


「昼間の逞しい辛辣秘書は何処行っちゃったのかな。そんな独りよがりなことしちゃってさあ。」


「や、そこはもっとフォロー入れるとこじゃないですか?」


「あは、そんな期待通りの行動俺がしてあげるわけないじゃん。」


言いながら大王は腕を伸ばしてきた。細いそれが首に回されて距離がいっきに縮まる。


「消えるのは、鬼男くんだけじゃないじゃない」


「え、」


大王が不意に耳元で話しはじめた。耳を掠める息がくすぐったい。


「生まれたものはね、皆消えていくんだよ。そりゃあ長い短いの違いはあるけど、いつかは絶対消えるんだ。……、俺以外。」


「………」


「今まで生きてきて、いろんな生き物と会ったよ。動物だったり人間だったり鬼だったり、数なんて数えらんない程いっぱい。」


「はあ。」


「その中で正直忘れちゃってる人とかもいるかもしれないけど、俺がその人と一緒に居たって事実はなくならないわけで。」


そこまで聞いて僕は大王の声を掻き消すように口を挟んだ。


「だから、僕は忘れられたくなくて」


「良いから聞いてよ。」


いつになく真剣な大王の声色に僕は黙り込むしかなかった。それを見て満足そうに大王は続ける。


「その人と出会って変わったところや得られたもので『俺』ができていくんだよ。上手く言えないけどね。」


あは、と少し照れたように笑いながら大王は続けた。





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