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□悪酔い
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「閻魔大王」と、普段別の鬼たちや死者たちに呼ばれている名で呼ばれてから、溶かされた筈の自尊心諸々が頭の隅でちらちらと見え隠れする。
罪悪感から、与えられる苦痛とほんのちょっとの快楽から逃れようと試みるが、抵抗するには身体を溶かされ過ぎていた。静止を訴える為に伸ばした腕には力が入らないし、脚は閉じることすら出来ずにだらりと放られている。

それでも言葉では嫌だと必死に紡いでいるが、相変わらず鬼男くんは厭らしい笑みを浮かべたままだった。


「ねえ、大王。嫌って言ってる割には抵抗もせずに、大人しいですね?」

俺の中に埋めた指をぐるりと掻き回しながら嬉しそうにそう吐き捨てる。
対して俺はと言えば、鬼男くんの言葉に顔を真っ赤にしながらそれを否定することしかできない。

嫌だ嫌だ、やめて、
と 懇願するように見つめれば、尚鬼男くんの表情は緩んでいく。

「な、何考えてんだ、…っこの、Sおにっ、」

いい加減苛立ってきてそういうと、不意に真面目な顔を見せられた。
普段仕事中に盗み見る整ったそれに、きゅん と心臓が掴まれるように感じる。

「だってこうでもしないと、あんた僕を頼ろうとしないでしょう?」

皆目見当としていなかった言葉が降ってきてしばらく意味を理解できなかった。未だに頭の上にははてなマークが並んでいる。

「何、つまりは僕に縋れって言いたいの?」

随分支配欲の強い、偏った性癖の持ち主だね と考えた末の結論を棘を含ませて突き立てた。
鬼男くんは俺が一生懸命考え導き出した結論を、はぁ と溜め息ひとつで一蹴すると、違いますよと鋭い金眼をこちらに向ける。

「あんたはいつも一人でなんでも背負いすぎなんだよ。無理してばっかで見てるこっちがしんどい。」

「は?」

「だから一回僕を頼って欲しかったんです。一回頼れば無駄に高いプライドも何も、関係なくなるでしょう?」


鬼男くんが何を言わんとしているのか理解し難いのは回った大量のアルコールのせいか、はたまた彼の言うところの無駄に高いプライドのせいか。
とにかく彼の要求を受け入れようとしない俺に、真面目な顔を一変、鬼らしい禍々しいそれに変えて
「まあその高いプライド、粉々に打ち砕いてやりますよ」
なんて言いやがった第一秘書に、久々に恐怖とやらを感じた気がした。









悪酔い









身も精神も君に絆された上に依存するだなんて、冗談じゃない。







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