日和

□狂愛
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「こら」


帰ってきたハリスは再び小刀に手を伸ばしていたヒュースケンを叱った。
ヒュースケンはハリスを見つけるやいなや小刀へ向いていたよりも大きな関心を持ってこちらに寄ってくる。


「待ちくたびれましたよ、ハリスさん。もう、僕以外と話してたんじゃないですよね?」


「ヒュースケン君…まだ三分も経ってないよ。君そんな堪え性のない子だったかい?」


ハリスはヒュースケンの左腕を手に取り、濡らした布で血を拭き取る。幸い血は止まっており止血はしなくてすみそうだと安堵した。


にこにこと楽しげに血を拭うのを見ている彼が、左胸に手が伸びて来ると、あ、と声を漏らした。


「そこ、傷、浅いでしょう?前にハリスさんに心臓と首筋と、手首は死んじゃうかもしれないからやめなさいって言われたから、ちゃんと思い止まったんですよ」


ちょっと傷はついちゃいましたけど、と申し訳なさそうにする彼の頭を、空いている左手でそっと撫でてやる。


「そうかい、いいこだねヒュースケン君、」


子供をあやすように、優しい声をかけながら。
するとぱっと顔を上げ再び満開の笑顔を見せる。


「ハリスさんが大好きですから、それくらい、」


本当に嬉しそうに話すこの子は可愛らしい。


「でも、傷をつけることはやめないね、君は。」


一変、冷たく叱るような口調で彼を責める。
しかし彼もそこだけは譲る気はないようで、


「だってハリスさんは僕が傷をつけるのをやめたら僕に構ってくれないでしょう」

と、きっぱりと言い放った。
真っ白い包帯を巻かれて間もない左腕を、寂しげに見つめながらヒュースケンは続ける。


「そうでしょう、ハリスさん。例えば僕に新しい傷ができなくても僕に構ってくれますか?

…愛して、くれますか…?」


そう言うヒュースケンは不安半分、期待半分の表情でハリスの袖をきゅっと掴む。


縋るその手を無情にも振り払い真っ直ぐに彼の目を見て残酷な返答を告げた。



「すまない。」



ヒュースケンの顔が絶望に歪む。
蚊の鳴くような声でやっぱり、と呟き、はらはらと涙する彼を抱きしめるハリスの胸は、愛しさで溢れていた。




(ああ、愛しているよ、ヒュースケン君。…しかし、)






ハリスはこの通訳からの愛が枯れてしまうことを最も恐れていた。

この気持ちを伝えて愛しいと彼に告げられればどんなに幸せなことだろうかと思う。
だが幸せは永久には続かない。
いつか君の興味が、愛が私から離れてしまったらと考えると怖くて堪らない。だから




(この傷が、私とこの子を繋ぐ唯一の証だ)



どうかこの愛しい傷跡が、絶えることがないようにと願いを込めて口づけ、もう一度囁く。





「すまない…、」


























-狂愛-

私は、君を傷つけることしかできない。
それでも、


























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