パンドラハーツ

□バレンタイン
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★バレンタイン★

『………何してるんですカ』

そこはレインズワース家の調理場でついでにお昼を回る時間。台所にへたりこんでいるお嬢様…もといシャロンを見つけ手に持っていた物を見て思わず呆れてしまった。


『…何度も言いますケド,お嬢様に料理は無理ですヨォ』


『う,煩いですわよブレイク!』

シャロンが顔を真っ赤にして反論するのを面白く思いながら『ところで何作ろうとしてるんですカ?』と聞いてみた。


『………これを見て判らないのですか』


『この黒い塊を見て当てられる人はいないでショ』

…と言う前に降り下ろされたハリセンを反射的に避ける。

冬場の調理場は寒いのに…,何故こんな時期に料理に挑戦しているんですかネ?


『……っ!もう早く出ていってください!!!』


『危なっかしいですし,なんならワタシも手伝って差し上げますヨ?』


『結構です!』


シャロンはどうしてもワタシに出てってほしいらしい…。


『………。』

『な,なんですの?』


じーっとシャロンを見つめ『アァ,そう言えば…』と漏らす。

『そろそろでしたネ,バレンタイン』

『……っ!!!!』

ボンッと顔に火がついたように赤くなり持っていた銀のボールを落とす。金属と床の派手な不協和音を聞きながらニヤリと笑う口許を長い袖で隠した。


『ほぅ…それ誰にあげるおつもりで?』


『あ,貴方には関係のないことですわ!』


『酷い言われようですネェ…』

さて,誰にあげるのやラ….


『ギルバート君ですカ?』

『違いますわ』

『…ではオズ君に?』

『違います』

『あーじゃぁレイムさんですネ』

『…違います』

ここまでハズレると思い当たる節が…

『ま,まさか溝鼠じゃないでしょうネ?』

『なぜその人が出てくるのですか!?』

アァ…良かった,まさかと思ったが違ったらしい。

シャロンはふと悲しそうにボウルの中の物を見つめ『……やっぱり,こんな物貰ってくれないと思いますわ』と言った。


そう言えば……

『シェリー様は…』

『お母様が何か?』

『料理が得意でしたよネ』

『……っ!ど,どうせ私は料理が出来ませんわ!お母様と違って…私…は……』


シャロンは下を向き泣きそうに呟く。それを見ていたブレイクは

『フフフ……君は子供だネ』

と言い頭を撫でながらボウルを取り上げた。


『な,何をするんですの?』


『何だと思いますカ?』


ブレイクはボウルの中に入っているチョコレートであろう塊をパキンと割りそのまま口へ運んだ。


『ザクス兄さん!?』

『……苦いですネ…まァたまには苦いチョコも悪くない』


ブレイクは手についたチョコをペロリと舐め微笑する。


『…何でそんな物食べたんですの?』


何故?


何故自分がこんな行動をしているのかと舌に残った苦味を吟味しながら頭の片隅で考えた。

『お嬢様が…』

『シャロンが悲しそうだったカラ』

『……………。』

『それト…』

『……?』

『誰にあげるんだか知りませんケド……そいつが食べない可能性があるなラ,ワタシが食べたいと…思ったので』


料理が苦手なシャロンが不器用ながらも頑張って作ったもの,それを失敗作とするのはワタシが嫌だったのかもしれない…。

『………ザクス兄さんは狡いですわ』

『?』

『もっと…もっと美味しいのを……最初……に,食べて,欲しかったのに……』


シャロンは耳まで真っ赤にして途切れ途切れに言うと手で顔を覆った。


それハ……成る程そういうことか,


『全く貴女は嬉しいことをしてくれますネェ♪』

『…〜〜っ!!!』

『それワタシが貰っていいんですネ?』

『あ…貴方のために,作ったんですから…貰ってくださって結構ですわ!』


『…………』


涙目で睨み付けられて…不覚にも可愛いと思ってしまった自分は重症かもしれない。


『次は一緒に作りましょうネ』

甘いヒトトキ


君と


end
 

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