パンドラハーツ
□お茶会
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七巻のバルマ公に会う前のお話
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★お茶会★
朝日が燦々と降り注ぐ優雅な時間。白いテーブルクロスが時折思い出したように軽く風になびいて,テーブルの中央にはいかにも甘ったるそうなケーキが幅をとっていた。
ブレイクはそのケーキを楽しげに切り分けるとアリスの前に置く。
紅い目をすっと薄め笑顔を作り『ドウゾ』とレモネードもその側に置いた。
『…おいピエロ,話と言うのは何なんだ?』
アリスは腕を組みブレイクを睨むと銀髪の男はそれと対照的な顔を作って見せた。
『オヤ…?話なんてありませんヨォ』
『……は?貴様私に大切な話があると言っただろう!?』
『だぁかぁらぁ ソレ嘘です♪』
『っ…帰る!!!』
立ち上がったアリスをブレイクは『まァ…そう言わずに付き合ってくださいよ』と肩を掴み再び座らせる。
テラスの上は居心地が良く,耳を澄ませば鳥の囀ずりも聴こえてくる程静かだ。
確かブレイクのお気に入りの場所でよくシャロンとお茶会をしているはずだが………何故私がピエロとお茶を飲まねばいけないのだ?
『お嬢様は今日パンドラに行ってるんですよ』
成る程私はシャロンの代わりか…って
『私は何も言っていないが』
『貴女の考えてる事なんてお見通しですカラね』
ふんわりとブレイクは笑う。
レモネードの香りが揺れるような錯覚に陥った。
しばらく無言でテーブルの上のケーキを食べていた二人だったが,ふとブレイクは手を止めると
『貴女は…』
『?』
ブレイクは珍しく言葉を探すような顔をしたがアリスを一旦見つめると口を開いく。
『貴女はまだ記憶を求めているんですか』
『……いきなり何を言い出すんだ』
『まぁ…気になったものでして……で,どうなんですカ?』
記憶を探すと言うことは本当の自分を知るということ。アリスは普段は強気だがとても危うく脆い部分がある少女なのだ。チェシャ猫の件でそれが判ったからには聞いておきたいと思っていた。
『私…は』
アリスの瞳が揺れた。
そこに見えたのは不安の色。
その瞳に吸い込まれてしまいそうな心地に襲われた。……それはまさに深淵の淵【アヴィス】に堕ちていく様な浮遊間。
…目の前にはワタシがアヴィスに堕ちた時に現れた白いアリスと同じ顔がある。
あれは酷い悪夢だった。
すべてが狂い,すべてがねじ曲がっていた。
アヴィスの意志に目の無いチェシャ猫と不気味な笑い声達,人形,白い騎士,人形,チェイン,血の染み込んだカーペット,
そして溝鼠と鴉……
『私は…求めるぞ』
『何故です?』
ワタシはワタシの目を盗った白いアリスと同じ顔に問う。何故そこまで必死に求めるのかワタシには理解できなかった。
『私がここに在る理由を知りたいからだ』
―――私が私であり続けるために―――
『立ち止まりたく……ない…』
『ふふ……愚かですネ』
『う,煩い!』
『そしてとても貴女らしい答えデス』
ブレイクは立ち上がりアリスの頭を撫でると,黒い髪が太陽の光に当たりキラキラと光って見える。
『何をする!?』
アリスは一瞬されるがままになっていたが,はっと気付き慌ててブレイクの手を退ける。
『頭撫でちゃ駄目なんですカ?』
『何故撫でる必要があるのだと聞いているんだ!』
『えーアリス君知らないんですカ?昔からいい子にはコレしなきゃいけないんですヨ?ねぇエミリー』
『そうそう,しないと呪われるんだゼ★』
『そんな話聞いたことない!!!それにお前が呪われる分には一向に構わない!むしろ呪われろピエロ!』
『いいえ★呪われるのはアリス君デスよ』
『なっ,何故だ!?』
アリスのショックを受けた顔を見てニヤリと笑い長い袖で口許を隠した。
『それはワタシの撫で撫でを素直に受け取らないカラです』
『…お前が撫で撫でって言うと気持ちが悪い!』
『……だから,ネ?大人しく撫でられなさいヨ』
何が『だから,ネ?』なのか全くわからん…。わからん……が,
『………………撫でられれば呪われないんだな?』
『勿論』