パンドラハーツ
□願い
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★願い★
『ザークシーズ=ブレイク!!!』
怒鳴り声がパンドラの廊下に響き渡る。毎度毎度のことながら今度ばかりは私も額の青筋を隠せそうにない。
『おヤァ?レイムさんじゃありませんカ』
綺麗な笑顔をたたえとぼけてみせる紅い目の男…ザークシーズ=ブレイクは私を見るなり『大変そうですネー』と言ってきた。
『〜っ!誰のせいだと思ってるんだ!!!』
勢い余ってうっかり手に持っている大量の書類を落としそうになる。
『っとォ〜危ないですヨー』
スッと伸ばされた細長い片手に助けられたが騙されないぞ!
そもそもコイツがちゃんと仕事をこなしていれば私がこんな大量の書類を持つこともなかったんだ!
『お前は毎度毎度仕事をせずに私に押し付ける!』
精一杯睨みを利かせたのだが相手は一枚上手のようで
『レイムさん飴玉なめマス?』
飴玉のセロハンを剥がすと親指で弾く。丁度怒鳴っていた時だからうまい具合に口のなかに入った。
うまくしてやられたと思いつつ飴玉に罪はないので舌で転がしてやる。
『……………甘い』
『まぁ,苺味ですしネ』
『私は苺よりレモンが良かった』
どちらかと言うとスッキリした味が好きなんだ。
『あーワタシはレモンあんまり好きじゃないんで持ってないデス』
『だろうな,お前のそのポーチには甘いものしかなさそうだ』
ブレイクが愛用しているポーチを指差したかったがいかんせん書類があるものだから手の自由が利かない。この書類の存在がずっしりと私の腕の中で主張し始めた。
『……ところで今私が持っているこの大量の書類は本来お前がしなければならない仕事なんだがそこら辺はどう思う?』
『あららァ〜ワタシそんなに溜めてましたカ』
『最近なんてお前の苦情が私のところに来るようになっているんだぞ!』
『アハハ!それはそれはさぞかし大変でしょうネー』
『お前のことだお前の!』
こんなやりとりをしているとブレイクが懐から時計を取り出し見た。
『…?なんだ誰かと待ち合わせでもしているのか?』
『シャロンとね』
『馬鹿,ここではシャロンお嬢様と呼べ』
ここはパンドラの廊下で誰が聞いてるかもわからない。
使用人のブレイクが貴族の令嬢であるシャロンを呼び捨てなどあってはならない事で,だからパンドラ内でもお前をよく思わない奴が出てくるんだ,とレイムは内心でブレイクを罵った。
『最近ね』
『……なんだいきなり』
『ワタシしあわせなんですヨ』
いきなりブレイクが脈絡のないことを言いだしたので眼鏡がずれ落ちそうになる。
『…判ってると思いますけどワタシにはもう時間がありまセン…』
『………。』
ブレイクは悲しそうに笑う。
私は笑わない,無言になるしかなかった。
『ケビン=レグナードだった頃のワタシを全否定するつもりはありませんがね…,赦せない気持ちが強いんですよ』
愚かで,主人のためだとほざいていたワタシ。結局主人のためにを言い訳していただけだと気付いたのは左目を無くし,大切な者の未来を奪った後だった。