パンドラハーツ

□笑いカワセミに気を付けて
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“笑いカワセミに気を付けなさい”


―――それは昔聞いた話―――


まぁもっとも今現在気を付けなければならないのは………





『貴方…,ですけどネ〜』




『……?なぁに帽子屋さん?』





ここはナイトレイ家のヴィンセントの部屋。その部屋の主である人物はゆっくりと振り向いた。綺麗な長い金髪を今日は横に1つに結っていてゆったりとした白いシャツを着こなしている。

見た目こそ美しいが何を企んでいるのやら……。



部屋の中は人形の腕や頭が転がっていて【……鋏で引っ掻いたのだろうか?】カーテンまでもがズタズタになっている。お世辞にも綺麗とは言えないこの部屋に招かれて何かと思えば『パティシエにケーキを作らせたんだけど食べきれないから手伝ってくれる…?』というものだった。これが溝鼠の頼みでなければ喜んで応じるところだが……


『貴方……ですからネェ〜』



『今日の帽子屋さんは独り言が多いね…?更年期障害かな?』


『あははー,その口二度と開けないようにして差し上げましょうカ?』


『…嫌だよ』と緩く微笑みヴィンセントがケーキを切り分け始めようとした。それを横目で見ていたブレイクは立ち上がりナイフを奪う。


『……ワタシが切り分けますヨ,貴方は座ってなさいな』


『えー…?どうして?』


『そりゃ一応…』

あんた貴族様々ですし

自分の身分判ってないのですカ?


……と言うのはなんか癪ですから


『……貴方の切り分け方が下手くそだとワタシの第六感が告げているんデス』


『ふふ…妖怪アンテナ的な感じのことだね……?』


『は?意味わかりませんよ』


『水木しげるさんは偉大だよね…』


……ウン……放っておこう。


ブレイクはそう決めるとナイフを持ち直す。


『あれ…?シカト?酷いね』


それも聞こえないフリをする。

『ねぇ…?やっぱり僕がやるよ』


ナイフのストックがあったらしくヴィンセントはブレイクからケーキを奪い取ると,切り分け始めようとした。



そしてナイフが降り下ろされる

真ん中の苺めがけて


『だぁぁぁぁああ!ちょっ…!!!!ストップ!!!ストップ!!!馬鹿ですカ!??馬鹿なんですカ君は!?』


ブレイクは咄嗟に自分の方へと避難させたケーキを持ちつつヴィンセントを睨み付けた。


『切り分けるの意味判っていますカっ!?』


『あれー…?ナイフが抜けないよー…どうしよう…?』


ナイフを降り下ろした際にそのままテーブルを貫通してしまったらしい。ウ〜ン…と唸りつつも,ナイフを引き抜こうと奮闘しているヴィンセントはブレイクの話なんか聞いちゃいない。

『っていうか切り分けるのに何故刃先をケーキに突っ込もうと考える!?』


『エコー…抜けなくなっちゃった』


『はい,ヴィンセント様』


何処からともなく現れたエコーはいとも簡単にナイフを引っこ抜きヴィンセントに渡した。


『ふふ……流石エコーだね…ありがとう,もう下がって良いよ』


『はい,ヴィンセント様』



エコーはペコリと丁寧に一礼し部屋を出て行った。とたんに静かになった室内に青筋をたてたブレイクがにこりとヴィンセントに笑いかける。見た者を凍りつかせるような笑顔にヴィンセントも笑顔でかえしてきた。
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