パンドラハーツ
□愛の輪郭
1ページ/2ページ
意識の中で濁色が混ざり合う。
警報とも言える最後のサインが
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ちかちかとシグナルの点滅。信号、送られることのない交信、シナプスの電信が上手く繋がらない。
それから程なくして世界が傾く感覚を頭の隅で感じた。
感覚が感触に変わって、【只単に倒れたのだ】冷たい黒い土の感触。はっとするほどの自然の匂い。
『っ…、』
不意に空気の塊が漏れ始める。
こんな幕切れ、命がぷつり、と切れるその一歩手前。
瞼の裏の補色がるくると廻り始める。
【補色と補色が混ざり合うと灰色】
唐突に文字が浮かんでは消えていく。
【死人は灰になって、】
【空に還るんだよ】
灯火がゆらゆらと、死が、目の前にあるのが十二分に理解できた。
あぁ、まだ、伝えていない、のに
【君に聞こえると嬉しい】
【聴こえますか】
【この声が】
【息が】
【停まってしまいそうな】
【この心音が、】
ひゅ、ひゅ、
不規則な呼吸音を吐き出す、
なんて無様な
烏が上空に舞う、烏の影が私の顔を更に陰らせた。
『、…、…っ』
声ではない、塊が、喉をただ無意味に流れていく。
紡がれることのない言葉は落下して地面へと滑っていった。
お似合いだ
傑作だ
笑だしたい衝動と同じくらい泣き出したい衝動。
走馬灯のように1つ思い出すのは、あの笑顔。
記憶の中の君の絹の様な線の細い髪が、淡い橙色の髪がゆっくりと小さく揺れた。
陶器の様な白い肌と薄桃色の頬と、それに映える唇がゆっくり弧を描いて、そう、それから、…綺麗な瞳を細めて笑って。それだけで空気が柔らかくなる、ふわり、と心が軽くなるような…そんな風に記憶の中の君が優しく笑うから。
笑顔を
あの笑顔を
もう一度見たかった、なんて、
【最早ワタシにはそれを見ることなど赦されてはいないのに、だ】
ずきりと、心が軋む。
視力も何もかも、亡くしてしまったのに…【見たい】だなんて何て世迷い事を…ワタシらしくもない。
そう思うと瞼が、段々重くなってきた。
身体がすぅっと冷えていく。
.