-詩-

□空へ帰る人
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こうして屋上まで遮るものなく上ってこれる
階段
空の碧さ 雲の白さに目を奪われ
錆びたフェンスさえ小さい
肺に沁みてくる空気は透明で
冷たく
澄んでいる
この心よりも

ああ
こんなにも高く空のそばで
立っていられるだけで幸せだ
厄介な音は全て消える
視界もただ一面に青く白く
理解できない思考さえ消し去る

フェンスのほつれ目に来るのは危険だ
そこに目が行くことさえ躊躇われる
落ちると危ないから
ではなく
墜ちたいと考える自分に出会いそうで

ああ
なんという自由な世界だろう
開放感という解放
頭の中は白く洗濯後のようにクリアで
フェンスに手をかける僕が居る

どこまでも続いていく錯覚にある
10メートルの飛行空間
上から見下ろすだけでは分からないけれど
すぐに下へ辿り着くのだろう

身体は地へ墜ち
魂は空へ
抜け落ちる僕は
水の粒子みたいになって揮発するだろう

ああ
眼下に広がる大きな池の
鏡のように美しく光る水面は
この天より深い青を宿して
僕の亡骸が浮かぶのを待ってる

そんな妄想を
妄想を
僕は

ずっとしてるんだ
君が止めに来るから

君の声が 手が
目が
この身体が旅立つことを引き止めるから
この終わり無き透明な 透明な青の
空へ帰るのを
君の手が引き止めるから
僕はフェンスを乗り越えられずに居る
だから
黙って空を見上げるんだ
ひたすら
その声が その声が

ああ また君の声が聞こえる

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