-小説-

□青い翅
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あるところに、翅を持った少年がいました。

翅は蜉蝣のように薄く、薄水色をしていて、時には深い藍色に、時にはエメラルドのような透明な輝きを帯びて、滑らかに煌きます。

少年にとって、それは自慢の翅でした。誰もが、そのしなやかな若い肌が保つ瑞々しい翅に見蕩れ、その美しさに惑わされ、羨ましがるのです。

少年は、その翅で空を跳ね回るのが好きでした。翅は両手を広げてもまだ足りないくらい大きく、綿よりも軽いのです。
一度羽ばたけば、ずっと山の先まで簡単に飛んでいくことが出来ますし、海の上をカモメと飛ぶことも出来ました。

ある日、少年は海岸で一羽の鳥を見つけました。

その鳥の羽は傷ついて、ところどころ抜け落ち、広げることもままならないようです。
鳥は幾度か羽を震わせて、痛々しくうなだれました。少年が鳥に声をかけると、鳥は嘆くように言いました。

「この前、猟師に矢で撃たれたとき、羽が傷ついてしまったのです。なんとか命は取りとめたものの、この傷では、私はもう飛ぶことが出来ません」

鳥は悲しそうな瞳をして、遠く海を眺めました。

「私たち渡り鳥は、冬を越すために、ここよりもっと南の国へ行かなければなりません。私の仲間は、もうみんな去ってしまいました」

少年は、鳥の気持ちを察してとても悲しくなりました。
この、自分の生えている翅がなくなり、自由自在に空を飛び回ることが出来なくなったら、どれだけ寂しいでしょう。
風の流れを読み、雲の流れを読み、太陽に向けて飛ぶことが出来なくなったら、どれだけ辛いでしょう。

少年がそう思っていると、鳥は彼に言いました。

「綺麗な翅を持ったあなた、お願いがあるのです。冬の間、この冬の間だけで良いですから、その美しい翅を私に貸してもらえないでしょうか。たったもう一度だけで良いのです、もう一度遠く空の果てまで、飛び立ってみたいのです」

少年は驚き、そして迷いました。鳥の気持ちはよく分かります。
けれど、その間ずっと、自分も飛ぶことが出来なくなるのです。

海が氷砂糖のように凍りつく流氷や、真っ白に花が咲いたように山を埋め尽くす樹氷も、今年は見ることが出来なくなるのです。

それに、もしかしたら、翅を貸したら、鳥はもう戻ってこないかもしれません。
翅が返ってくる保障はないのです。

けれど、少年はかわいそうな鳥に翅を貸すことにしました。その澄んだ瞳に、少年は自分を同じ空を愛する色を見たのです。

鳥の背中に透明な翅をつけると、鳥はとても喜びました。
何度も繰り返して礼を言い、そして約束しました。

「暖かくなる頃には、必ず、必ず、戻ってきます」
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