story
□楽園
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*追憶の中に居た*
「所詮、過去の綺麗な思い出だって、そんなセピア写真みたいな話」
真希さんにそう吐き捨てられてしまったもんだから、妙な説得力に圧されて頷いてしまう。
陽の照り付けるアスファルトを他人事みたいに横目で見て、私はこっそり苦笑いをした。
「あのね、アタシだって誰にも負けないって恋、したけどね…やっぱり幻想だったわよ」
18歳でできちゃった結婚、挙げ句ハタチで離婚した彼女は言う。
「誰よりも幸せになりたいなら、堅実で真面目な男探すしかないんだって」
目線がちょっとおばさんですよ真希さん、なんて言えば、カット中の頭を丸坊主にされかねないから言わない。
「ん?でも何で今更元カレの話なの?」
鏡越しに目が合ってしまって、私の顔面の苦笑いに気付かれる。
「んっと…はは、実は今日、そいつと付き合い始めた記念日なんですよねぇ」
「は!?ナリちゃんまだそんなんに囚われてんの!?」
はぁ〜無駄無駄!真希さんが呆れた風にハサミを振り回す。
「そいつと別れて何年?」
「えっと…高校卒業して、だから3年ですね」
「ナリちゃん彼氏いるよね、今」
「はい、まぁ…」
「どんなやつ?堅実?カタブツ?」
真希さんは自分の仕事も忘れて私の顔を覗き込む。
「堅実、かは微妙ですけど、真面目だと思いますよ、比較的」
私の答えにふーん、と頷いて、気を取り直したように再びしゃきしゃきとハサミの音を響かせる。
「なんかナリちゃん、恋する女の子って感じの反応じゃないもんなぁ…ツマンナイ」
「え、そうですか?」
「うん、あ前髪流すね」
仕事に再び集中し最後の仕上げにかかる彼女の手さばきを、まるで見惚れるかのように目線が追う。