短編

□10.
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今度こそ 今だから
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「バカじゃないの。」


「あんたバカなのよ!」


「バカ!大バカ者!!」



「あんたのそう言うバカなトコ・・・・嫌いじゃないよ。」



今だかつて、私にこれ程バカを連呼した人間は、他にはいませんでした。

人より動物が好き。
特にブウサギは大のお気に入りで、影響を受けたどこぞかの皇族がまねして飼い始めたり。

ピオニーとあなたは良く似ていた。

その点、私とあなたは対極にいましたね。

実験のため、己の欲のため命を奪う私をあなたは嫌っていた。

命を尊ぶ事。
私に欠けたこの感情を、あなたは人一倍その身に宿していた。

そんなあなたを私は疎ましく思っていました。

思って・・・・いたんです。




「彼女が死んだ?」

軍事演習のためグランコクマを離れていた私は、帰還して早々謁見の間に通された。

演習の報告かと思っていた私に告げられたのは彼女の「死」だった。

「あぁ、事故だったらしい。海に落ちた子猫を助けようとして波にのまれたらしい。」

「猫を助けて死んだんですか?」

「あいつらしいだろ。猫を助けて死んじまうなんて。」

私は、途方も無く意識が遠のくのを感じました。

「葬儀は明後日行われるらしい。今なら間に合う早く行ってやれ。」

私がグランコクマへ養子に出て早々、軍医を目指すのだと彼女がやって来ました。

彼女はとても優秀な軍医でした。

私よりも早く出世していって、階級も大佐となり一師団を任される立場となりましたが、あなた自身は昔も今も何も変わらなかった。

私が演習でグランコクマを離れると伝えると、なら自分は休養がてらケテルブルクへ行って来る、と船へ乗り込むあなたを見送った事を覚えています。

「おい、ジェイド!しっかりしろ!!」

気が付くと、ピオニーが私の両肩を掴んで揺らしていました。

「ショックなのはわかるが、今あいつが一番会いたがっているのはお前だ!だから早く・・・・。」


「行ってどうなる。」


カラカラに乾いた喉から出た己の声は、とてもしゃがれたもので・・・・。


「ジェイド、辛いのはわかる。だが・・・・。」


「何がわかるって言うんですか!!」


掴むピオニーの腕を振り払って、謁見の間を飛び出したところまでは覚えているんですが・・・・その後の事はよく覚えていません。

覚えているのは、軍基地本部にある自室に居た私を、ネフリーが迎えに来た事くらいです。

「兄さん、あの子が待っているわ。」

死を・・・・。

受け入れたくなかった。




雪が降り積もるケテルブルクで、私達は出合った。

街の中で目立たぬように端に設置された唯一の礼拝堂。

あたなたは冷たい棺に抱かれ、静かに眠っていた。



あなたは失う事の辛さを知っているのよ。

知っているから、フォミクリーを生み出せたんだと私は思うの。

だけど・・・・。

それを生き物には使わないで。

命を複製する事なんてできないのよ。

命は・・・・。

息とし生きるものに1つしかないんだから。



冷たい雫が手の甲に落ちた。

その感触で、自分が泣いている事に気が付いた。

泣いている自分に驚くと同時に、あなたを失った悲しみが一気に私の心を埋め尽くした。

もう、心地の良い声で名を呼んではくれないのですね。

もう、温かいあなたの体をこの手に抱く事はできないのですね。

もう・・・・。

あの素直じゃない、はにかんだあなたの笑顔を見る事も叶わないのですね。



命の大切さを教えてくれたあなたは。

同時に失う辛さも私に教えてくれました。



同じ過ちは犯しはしない。

この降りしきる雪のように、この想いは凍らせて仕舞おう。

そう、この時の私は思ったんです。




あの鼻垂れがとんでもない事を仕出かすまでは。


彼女の死体が持ち出された事は、それから大分経ってから知りました。


更に時を経て、私達は出会いました。

あなたと瓜二つの存在。

だが、命が異なるその存在。


そんな彼女に、

私は再び恋をしたんです。


バカだとあなたは笑うかもしれない。

けれど、今度こそ。

今だから、この言葉を素直に言える気がするんです。


誰よりも。

あなたを大切に想っていた、と。

愛しています。








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突如浮かんだジェイドネタ。

彼は自分とは正反対の人を愛しそう・・・・って思ったんです。






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