今度こそ 今だから ------------------- 「バカじゃないの。」 「あんたバカなのよ!」 「バカ!大バカ者!!」 「あんたのそう言うバカなトコ・・・・嫌いじゃないよ。」 今だかつて、私にこれ程バカを連呼した人間は、他にはいませんでした。 人より動物が好き。 特にブウサギは大のお気に入りで、影響を受けたどこぞかの皇族がまねして飼い始めたり。 ピオニーとあなたは良く似ていた。 その点、私とあなたは対極にいましたね。 実験のため、己の欲のため命を奪う私をあなたは嫌っていた。 命を尊ぶ事。 私に欠けたこの感情を、あなたは人一倍その身に宿していた。 そんなあなたを私は疎ましく思っていました。 思って・・・・いたんです。 「彼女が死んだ?」 軍事演習のためグランコクマを離れていた私は、帰還して早々謁見の間に通された。 演習の報告かと思っていた私に告げられたのは彼女の「死」だった。 「あぁ、事故だったらしい。海に落ちた子猫を助けようとして波にのまれたらしい。」 「猫を助けて死んだんですか?」 「あいつらしいだろ。猫を助けて死んじまうなんて。」 私は、途方も無く意識が遠のくのを感じました。 「葬儀は明後日行われるらしい。今なら間に合う早く行ってやれ。」 私がグランコクマへ養子に出て早々、軍医を目指すのだと彼女がやって来ました。 彼女はとても優秀な軍医でした。 私よりも早く出世していって、階級も大佐となり一師団を任される立場となりましたが、あなた自身は昔も今も何も変わらなかった。 私が演習でグランコクマを離れると伝えると、なら自分は休養がてらケテルブルクへ行って来る、と船へ乗り込むあなたを見送った事を覚えています。 「おい、ジェイド!しっかりしろ!!」 気が付くと、ピオニーが私の両肩を掴んで揺らしていました。 「ショックなのはわかるが、今あいつが一番会いたがっているのはお前だ!だから早く・・・・。」 「行ってどうなる。」 カラカラに乾いた喉から出た己の声は、とてもしゃがれたもので・・・・。 「ジェイド、辛いのはわかる。だが・・・・。」 「何がわかるって言うんですか!!」 掴むピオニーの腕を振り払って、謁見の間を飛び出したところまでは覚えているんですが・・・・その後の事はよく覚えていません。 覚えているのは、軍基地本部にある自室に居た私を、ネフリーが迎えに来た事くらいです。 「兄さん、あの子が待っているわ。」 死を・・・・。 受け入れたくなかった。 雪が降り積もるケテルブルクで、私達は出合った。 街の中で目立たぬように端に設置された唯一の礼拝堂。 あたなたは冷たい棺に抱かれ、静かに眠っていた。 あなたは失う事の辛さを知っているのよ。 知っているから、フォミクリーを生み出せたんだと私は思うの。 だけど・・・・。 それを生き物には使わないで。 命を複製する事なんてできないのよ。 命は・・・・。 息とし生きるものに1つしかないんだから。 冷たい雫が手の甲に落ちた。 その感触で、自分が泣いている事に気が付いた。 泣いている自分に驚くと同時に、あなたを失った悲しみが一気に私の心を埋め尽くした。 もう、心地の良い声で名を呼んではくれないのですね。 もう、温かいあなたの体をこの手に抱く事はできないのですね。 もう・・・・。 あの素直じゃない、はにかんだあなたの笑顔を見る事も叶わないのですね。 命の大切さを教えてくれたあなたは。 同時に失う辛さも私に教えてくれました。 同じ過ちは犯しはしない。 この降りしきる雪のように、この想いは凍らせて仕舞おう。 そう、この時の私は思ったんです。 あの鼻垂れがとんでもない事を仕出かすまでは。 彼女の死体が持ち出された事は、それから大分経ってから知りました。 更に時を経て、私達は出会いました。 あなたと瓜二つの存在。 だが、命が異なるその存在。 そんな彼女に、 私は再び恋をしたんです。 バカだとあなたは笑うかもしれない。 けれど、今度こそ。 今だから、この言葉を素直に言える気がするんです。 誰よりも。 あなたを大切に想っていた、と。 愛しています。 ------------------- 突如浮かんだジェイドネタ。 彼は自分とは正反対の人を愛しそう・・・・って思ったんです。 ------------------- |