縹色の狩人
□第0章
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誠凛高校のクラブ勧誘は盛り上がっていた。
桜の咲く校庭に各クラブのブースがずらりと並び、派手なポスターや立て看板があちらこちらに置かれ、新入生の気を引こうとする上級生達の声が途切れるこはない。
「ラグビー興味ない!?ラグビー!」
「日本人なら野球でしょー!」
「将棋、興味ない!?初心者、大歓迎!」
「漫研でーす!いま入部すると、手芸部特製ベレー帽、プレゼント!」
「手芸部でーす!いま入部すると、漫研特製《漫画で解説!ベレー帽の作り方》をプレゼント!」
このように各クラブが積極的に新入生獲得へ走るため、校庭は生徒でごった返し、嘆く新入生が出るほどだ。
これじゃあ逆効果じゃなかろうか、と周りを見ていた藍原馨は、ふと視界の端に映った水色に足を止めた。
「ん?」
藍原が足を止めると同時に、隣を歩いていた日向順平も足を止め、後ろを振り返る。
「どったの?二人とも」
一緒に歩いていた小金井慎二も足を止め、二人に尋ねる。
「人の気配がしたんだけど…」
日向は曖昧な返事をすると、ちょうど通り過ぎたばかりの掲示板を見遣った。
その隣では、藍原がじっと掲示板を見つめていた。
「人?もしかして新入生!?」
小金井がキョロキョロと周囲を見回すが、それらしき生徒の姿は見当たらない。
日向も首を傾げ、隣にいる藍原に振り向く。
と、藍原はいつの間にか日向を見て、首を傾げていた。
「…誰かいたか?」
「いや…すまん、気のせいだったみたいだ」
「ま、そういうこともあるよね!」
日向の謝罪に、小金井はにぱっと笑い、藍原も同意するように笑う。
「早く戻ってチラシ配ろうぜ。他の部に有望な一年を取られちゃう」
小金井はそう言って、手に持ったチラシを見せつけるように顔の横に掲げた。
他のクラブが新人獲得に精をだすように、誠凛高校バスケ部も鋭意勧誘中である。
特にバスケ部は人数が少なく、去年の夏に創設者の一人である木吉鉄平が入院してからは、部員六名で試合参加ギリギリの人数なのだ。なんとかして、このクラブ勧誘で新入生を獲得しなくてはいけない。
できれば経験者が望ましいが、情熱があるのならば未経験者も大歓迎だ。
だがしかし、今のところそんな有望な新入生とは出会えていなかった。
「もうさ、屋上からチラシをばぁぁっと撒いちゃうのはどうかな?目立つし、一年も興味持ってくれるんじゃん!?」
「ダメだって」
急くように小金井が提案すると、藍原がすぐさま諌め、日向も呆れ顔で首を振った。
「やめとけ。間違いなく先生に怒られるから」
「バスケ部(俺たち)には前科があるんだしさ」
「ああ、そっかー。去年の春にやっちゃったもんねー」
創部して間もない頃、バスケ部はその心意気を全校生徒の前で屋上から叫んだことがある。その一件があった為、教師達の目は今も若干厳しい。
「勧誘禁止になったら厄介だもんねー。……ここはやっぱり奥の手かなぁ」
と、謎の言葉を吐く小金井の顔はやる気に満ちていた。
その横顔を見て、日向と藍原の脳裏にある言葉が蘇る。
ーーー『小金井君がいつもと違うのよね…』
それを聞かされたのは、先日。
木吉の病室を訪れた時のことだった。
【春の嵐】