縹色の狩人
□過去編
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一瞬、世界が止まったように見えた。
音のない世界。
自分に向かってくる手。
避けられない、と思った。
「優輝!!!!!!」
「−−−−−!!!!」
自分の名前を叫ぶ声に我に返った瞬間、世界が暗転した。
「−−−だから、ただの捻挫だって言ってるだろ」
見舞いに来た後輩達に笑って言えば、彼らはそれぞれ違った表情を見せた。
「試合中にケガしたって聞いたら心配するっスよ!」
「黄瀬君、声が大きいです」
詰め寄る涼太にテツヤが諌めるように言う。
「入院と聞けば、心配もいますよ」
副主将の征十郎がそう言う。
それに俺は小さく苦笑した。
他の部員達は彼らを怖がっているけれど、彼らは普通に接すれば可愛い後輩だ。
そう言えば同級生達には、お前にだけだ、と言われた。
「頭打ったらしいからね。一応、検査入院する事になったんだよ」
だから心配しなくていいと言えば、それぞれがそれぞれの反応を見せる。
それから少し談笑した後、再度心配するなと言って彼らを帰した。
窓際のベッドから彼らの姿を見送り、小さく息をつく。
「…アイツらは帰ったのか?」
少し静かになった病室に、低い声が響く。
その声に振り返れば、修造が部屋に入ってくるところだった。
「ああ、さっき帰っていったところだよ」
「…何か言ってたか?」
ベッド脇の椅子に座った修造に向き直って、俺は笑う。
「相当心配かけたみたいだ。捻挫だって言ってもなかなか信じてもらえなかった」
笑って言えば、修造は少し表情を暗くした。
「本当はどうなんだ」
その言葉に俺は顔を伏せる。
「……今まで通りには動けないらしい」
それは、目覚めてすぐに医者に言われた言葉。
転倒した際に、受け身を取れなかった事で膝を強く打ったらしい。
らしい、というのは俺が覚えていないからだ。
今は布団で隠しているが、膝は固定されて動かせなくなっている。
それを頭に思い浮かべて、グッと布団を握り締めた。
−−−『今の状態でバスケを続けるのは難しい』
そう言われた時、目の前が真っ暗になった。
最後の全中を控えているのに。
それを目標に頑張ってきたのに。
手の届くところまで来ていたのに。
それが一瞬で遠ざかった気がした。
「……バスケ出来なくなるのか…?」
ポツリと、言葉を口をつく。
弱音なんて、今まで吐いてこなかった。
壁にぶつかっても、何とか這い上がってきた。
それはこの足があったからだ。
この足が、両足が無ければ立つことすらできない。
完治する前に無茶をすれば、二度とバスケは出来なくなる。
けれど、それだけが理由じゃない。
「…怖いんだ」