春風駘蕩
□春風駘蕩5
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『あー暇だ』
治療室はあたしの溜め息と淋しい独り言しか聴こえない。
もうこんな生活がかれこれ3日続いてる。
たまに何故かボロボロになった山崎さんとラケットが運ばれてくるが、それ以外は誰も訪ねて来やしない。
『どうせ誰も来ないんだし街に出てみようかなぁ』
そう言えば、最近は忙しくて街には住む場所を探しに不動産屋にしか出入りしていない。
(近藤さんには屯所に住み込んでいいと言われたが、流石に男だらけの所で生活は出来ないからね…)
思い当たったら即行動!
治療室のドアに"お出掛け中"という札を掲げて屯所を抜け出した。
暫く適当に歩いていると、江戸に最初に訪れた公園が見えてきた。
相変わらず子供達やペット連れで賑わっている。
平和だなぁと思いながら通り過ぎようとすると、誰かに"トントン"と肩を叩かれた。
振り返れば、公園のベンチで話しかけてきたグラサンのおっさんだった。
「よ!お嬢ちゃん。久し振りだね」
『あ!お久しぶりです』
「その服装…もしかして、真選組で働いてるの?」
『はい!まだ3日しか経ってませんけど』
「すごいじゃん!オジサンも昔はね…あぁ、いや、気にしないでくれ…」
いや、気にしてないし。
グラサンの奥が潤んでいるような気がしたけど…
なんか、めんどくさそうだな。
『あ、あぁ…大変だったんですね。でもこれからですよ!じゃ、私はこれで!!』
半分逃げるようにして退散すると後ろからお経のように
「そうだよね…これからだよね…」と聴こえる。
あたしの投げやりな励ましも、少しは効いたみたいだ。