短編・嘘予告
□リリカルFate【リクエスト】
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「―――前から気になっていたんだけど、実際のところ士郎となのははどこまでいってるわけ?」
中学校の昼休みの屋上。今日は珍しくなのはたちの管理局の仕事もなく久しぶりに全員揃ってのお昼となった。お互いの近況、世間話など話していたがふとなんとなしに話がやんだ時、アリサがふといまおもいだしたとばかりに問いかけてきた。
「―――ッ!?……アリサちゃんいきなり何を言い出すの?!」
突然そのようなことを言われるとは思わなかったなのはは突然のことに口に入れていたものが別の所に入り思わず咳き込む。そしてようやく落ち着き(今度は顔を赤くしていたが)顔を上げてみればそこには興味津々とばかりにこちらに向けてくる四人の視線。
「実は私も気になってたんだ。いつも仲良いもんね、二人とも。」
「そうやね〜。見ているこっちが焼けてしまうぐらい、アツアツやもんな。」
「どうなの、なのは?」
自分と士郎の仲について聞かれるのは何も今日が初めてというわけではない。だからいつものように返せばいいと、頭で考え赤くなる顔を抑えようとするなのは。
「べ、べつに、特に何もないよ。」
「そうやって。いつも、はぐらかすんだから。もうこの際どうなのか教えなさいよ!」
そんななのはのことで納得するわけではない一同。アリサの言葉に他の三人も頷いている。いつもなら士郎がいて、この手の質問を上手くかわすのだが生憎ここに士郎はいない。この学校は女子中学なのだ。士郎がここにいるようならいろいろと問題である。
まあ、仮に士郎がいたとして言い訳をしてもそれはそれで納得いかないようでなのはは不満そうな顔をするので、余計に勘繰られたりされるのだが。
「そもそもあれで何にもないわけないやろ。ほら、この前シグナムが士郎君と稽古したいって、連れていたときあったやん?その後、士郎君家に帰ったらものすご冷たい眼で見られたって言ってたで。」
「あれは、えっと、その。せっかくの休みの日だからどこかに行こうって話しをしてたのに簡単について行っちゃったから…」
必死に言いつくろうとしながら、自ら墓穴を掘る始末。みんなから向けられるじと目に思わず視線を逸らす。
「…そういえば、あんた。昔はよく士郎と結婚するって言ってたんでしょう。」
「それは幼稚園のことで……って!?な、なんでそのことをアリサちゃんが知っているの!!」
「桃子さんが前に嬉しそうに教えてくれたわよ。その時みんなもいたから知っているはずだし。」
「他にも、小学二年生くらいまではよく士郎の布団にもぐりこんで一緒に寝てたとか。その後も時々もぐりこんでたって。」
次々と暴露されていくなのはの幼いころの歴史。
「お母さん、何てことを!」
うう、私の人権はいったいどこに、と思わず頭を抱えるなのは。
「半分自業自得のような気もするんやけど…。」
「まあ要するに見て丸分かりなのよ。そのくせ、明確のことは本人たちはいつもはぐらかすし。そうなったら気になるでしょ!」
「ひゃい!〜〜〜いひゃひよ。ありふぁちぃぁん。」
白状しなさいとなのはの頬を掴み、ぐにぐにと引っ張る。それに助けてと他に視線を向けても、全員揃って首を振る。
さすがにつらくなったのか、ギブアップとなのはが手を挙げる。それにようやく話す気になったかと頬から手を離す。じぶんに興味津々といった視線が集まるのを感じため息を吐き、気乗りしないように言う。
「だからそんなんじゃないって。……だって士郎君好きな人がいるもん。」
その言葉に周囲に沈黙が走る。そして瞬間、
「「「「ええーーーーー!!」」」」
悲鳴となり、なのはを囲む全員から驚愕の声が上がる。屋上にいた人々もそれに驚き一斉になのはたちに視線を向けた。それに全員顔を赤くし、頭を下げる。
「え、でも、っええ?士郎君がほんまかいな。」
「そうよ。そんな話一度も聞いたことないし、素振りも見せてないわよ。なのはが勘違いしているんじゃないの?」
周囲はこちらに興味をなくし視線を逸らした後、まだ驚きが抜けきれない面々が矢継ぎ早になのはへ質問する。
今まで士郎はいつもなのはの傍にいたのだ。当初こそは兄弟と言い訳をしており実際そのように接していたもののそれもある事件を境にお互いに意識しあっているものだと思われていた。それが、実は士郎が他に好きな人がいるなど信じられるわけもなく、なのはが勘違いしていると思われた。
「ううん。どうしてそう言えるかは答えられないけどこれは絶対なの。・・・私はその人のようにはなれないから。」
あることを境になのはは士郎の過去のことを知った。その過去には士郎がある女性と関係を結んでいたことについての記憶もあり、それがかなり深いもので大切な人であったことを知っているのだ。それを知っているだけになのはは自分がその人と同じ、それ以上になれないと思っていた。
そんななのはの様子にさすがに居た堪れなくなってしまう一同。特に一番催促してしまったアリサは余計に気まずくなってしまった。
「なのははどう思っているの?」
そんな沈黙が走る中、一人フェイトはなのはの目を捉え口を開く。
「え…どうって。」
「士郎が、どう思っているかはこの際置いといて。これだけは答えて欲しい。なのはは士郎のことが好きなんだよね?」
「…っえ、あ、うん。」
確認するように静かに言うフェイト。その真剣さに思わずといった具合に頷いてしまう。
「だったら、最後まで諦めちゃ駄目だよ。」
「・・・フェイトちゃん?」
「なのはは私に友達になろうって呼び掛けてくれたとき私がそれを否定しても最後まで諦めずに声を掛け続けてくれたでしょう?」
「あ、あれは・・・。」
「違わないよ。その様子だと自分の気持ち、まだ士郎に言ってないでしょ?」
「う、うん。」
「だったら、結果も出てないのに諦めちゃダメだよ。やる前から諦めるなんてなのはらしくないよ。なのはは何事も全力全開なんでしょ。私も応援してるから、勇気をだして諦めずにがんばろ。」
なのはの眼を見つめ手を握り、頑張れと言うフェイト。
「・・・何か全部おいしいとこ、フェイトちゃんに持ってかれてしもうたなぁ。まあ、私も応援しとるで。当たって砕けろや!」
「って、砕けちゃダメでしょうが!やるからには全力で成功させるのよ!」
「私たちも応援してるからね、なのはちゃん。」
「フェイトちゃん、みんな・・・。」
「それとさっきその人のようになのははなれないって言ったけど。そんな必要ないよ。なのははそれで十分魅力的なんだから。」
「・・・うん。みんなありがとう。」
自分を励ましてくれる友達になのはは笑顔でお礼を言うのだった。
その後、そういう雰囲気だったとはいえ、思わず自分の恋心を暴露してしまった事実に気付いたなのはは、午後の授業に全然手に着かなかったのは別の話。
そうして放課後。そのまま久しぶりに全員で翠屋によるということになった。
「いらっしゃいませ・・・って、なのはたちか。おかえり。それといらっしゃい」
ドアを開け中に入ろうとするなのはたち。そこには翠屋の制服を着込んだ士郎がいた。
「…ただいま。」
昼のこともあり思わず士郎を見た瞬間思わず赤面してしまうなのは。それに訳がわからず士郎は首を傾げる。
「あれ?今日は士郎さん、お店のお手伝いしていたんですか?」
先頭で固まっているなのはにおかしいと思ったすずかが、ひょこりとなのはの横から顔を出した。そして士郎の姿を見てなるほどと納得したように頷き、士郎がここにいることに対し質問する。その時ついでになのはを前に進むように声をかけることも忘れない。
「ああ。今日は特にやることがなかったからな。」
「私たちは、たまの休みぐらいゆっくりしていいって言ったんだけど…。」
「普段は何もしてないのでこれぐらい手伝いますよ。」
「全くこの調子なのよ。こっちとしては助かるんだけどね。」
そんな士郎の様子に桃子は頬に手を当て困ったように微笑んだ。
「まあ本人が良いって言ってるんだからいいじゃないですか。士郎、とりあえずシュークリームとあんたのおまかせで紅茶を一つ。」
何時の間にアリサは固まっていたなのはを引きずり席に着いており、手馴れた様子で注文をしていた。
「あ、私もアリサと同じのを。」
「せなら、五人分同じのでええやろ?ついでにシグナムたちにもお土産で持っていくからよろしく。あ、士郎君も手空くようなら一緒にどうや?」
それぞれの遠慮なしの注文に苦笑する。とりあえずはやてに手が空いたらくると言い、注文の品を取りに行こうとしたところで誰かが服の裾を掴まれた。
「ん?どうしたすずか?何か追加の注文か?」
掴んでいたのはすずかであった。彼女は士郎を見つめニッコリと笑い、
「士郎さん、ちゃんとなのはちゃんのこと見てあげなきゃ駄目ですよ。」
そんなことを言った。
「…へ?」
「す、すずかちゃん!」
いきなりのことに思わず間抜けな反応をしてしまう士郎にそれに思わずなのはは大声を上げてしまう。
何はともあれ今日もまた海鳴は平和である。