小説 クロスオーバー(Fate・なのは・ネギま)

□プロローグ
1ページ/2ページ


―――そこに救いはない。

 かつて、活気のあったのだろう町は、その姿を連想できないほどに荒れ果てており、雑草すら生えていない。死体が辺りに転がっており、そのほとんどがミイラのようなもので、それは一様に苦しげな形相をしており、また一部ミイラ化していないものは胸や頭に傷を負っており、それらは恐怖と増悪の表情があった。

 そんな死だけが存在する町に一カ所だけ死体がない場所がある。それは町の中央に位置する場所であり、そこには黒ずんだ巨大な魔法陣があった。

 そんなおびただしい腐臭が漂い、おおよそこの世の姿をしていない世界で、魔方陣の近くに2つの生きた人影があった。

 しかし、こんな街の中である。もちろんここで生きているモノがまともであるはずがない。一つは、体中血塗れになりながらも必死で地をもがき、その眼に増悪の光を。もう一つは、その眼には何の色も映さず、血だらけではあるが両の足で立ち、両の手に2本の中華を思わせる陰陽の印を宿した剣を持っている。

 両の足で立つのはこの地獄を救わんとした衛宮士郎で、地を這うはこの惨状を作り上げた魔術師である。


戦いはすでに終わり、後は幕引きを待つのみ。

 魔術師はすでにその身体に無数の剣が刺さっている。そのままでも一刻も持たず死ぬだろうその体。もはや常人では立つことすらできない。しかし、驚くことにまだ魔術師は身体に刺さる剣を軸に立ち、それどころか、その足を遅々ではあるものの、己の体に突き刺さる剣を杖代わりに士郎へと体を引きずりながらも歩きだした。

 どこからその力が湧いている来るのか。まるで周囲を漂う増悪を活力にそれは声すら発して見せた。

「……我が一族の悲願を、貴様などに打ち破られるとは。なぜだ?…何故、貴様は理解しない!!魔法だぞ!?私は魔、法にとどくはずだった、いや、とどいたのだ!!貴様さえ出てこなければ!何故、私の邪魔をする!!貴様も魔術使ならばこの偉大さ、この偉業が分かるだろう!」

 後一歩で魔法使いになれただろう魔術師は、血を口から溢れさせながらも士郎に向かって叫ぶ。肺が傷ついてているのであろう。もはや息をすることさえ激痛を感じているであろうに、彼は叫ぶ。貴様が憎いと、何故理解しないかと、もう死に体でありながらも怒りをぶつける。

 その姿は傍から見ればこのぢ語句の光景も合わせ悪鬼のように見えたであろう。並みの者なら、あまりの異形に身を竦ませたかもしれない。しかし、そんな様子を、士郎はただ冷たい眼で見ていた。
 
「知らんよ。生憎、魔術使ではなく魔術を手段の一つとして扱う魔術使いにすぎない。私はただ人を救うだけさ。貴様が魔法にとどいても、とどかなくても、私はただ…人を救うだけなのだから。」

 士郎は一歩も動かない。すでに士郎と魔術師の体に距離はない。片方が少し手を伸ばせば相手の体に触れられるほどの距離。戦闘中でもここまで近づきはしなかった。今この瞬間こそ二人が一番接近した距離だろう。士郎の眼には、魔術師の血走った瞳の中にある増悪の深さと強い侮蔑の色が読み取れた。

「っは!なんだ、貴様はどこのヒーローのつもりだ?いきなり飛び込んできたかと思えば、そんな下らぬ望みで、私の願いを、一族の悲願を、―――虫唾が走る!…人を救う!?周りを見ろ!そこらに転がるいくつかはお前が殺ったんだろう!?救いを求めるその手にお前が手向けたのは死であろう。」

 その言葉に初めて士郎は感情を見せた。町の一部のミイラ化されていない死体にある急所の傷は士郎が与えたものだ。

 処置をすれば間に合ったかもしれない。しかし、そのようなことをすればこの魔術師を掃討することは無理である可能性があった。もし、この魔術師を生かすことになれば同じことを別の場所でするであろう。

 ゆえに士郎にできたことは周りが干からび、また自分自身も苦しみを感じているその地獄のような時間を、救いを求めるその姿を、早く終わらせることしかできなかったのだ。

全てを救えない。最小の犠牲の下、より多くを救う。

 それは士郎がこの数年痛切に実感させられたことであった。

(だから、わた、…俺は、大切なものだけでも。)

 そんな士郎の表情に魔術師が気付かないはずがない。その鉄面皮を動かせたこと自身をより一層興奮させた。

「分かるか?!…貴様は何も救えない。救えやしない。与えるのは死の」

 魔術師が手を、士郎の首へあと数センチまで伸ばす。

 その瞬間、魔術師の身体にまた無数の剣が突き刺さり、地に縫い付けられその手は士郎に届くことなく死んだ。

「そんなこと貴様に言われるまでもなく理解している。」

 自分が間に合わなかったばかりにまた犠牲を出した。
そんな自分にできることは、ただ自分が救えなかった命を、その増悪を背負うことだけ。
それをずっと繰り返してきた。
全ての人を救うなんて理想が叶うなんてもうあの頃のように思ってはいない。
夢を諦め大切なものに気づき、それを消失した自分は、せめて手のとどく者のみは守ると決めたのだから。

 ふっと一つ息を吐く。後悔するのも感傷に浸るのも後であり、今はあの魔術師が作り出したものを破壊しなければならない。
アレに使われている技術は情報によると忌々しいことに、七年前破壊した大聖杯の欠片を盗み、その技術を流用したものである。

 士郎は儀式場を破壊すべく残り少ない魔力を糧に宝具の投影の準備に入る。

そのとき異変が起こった。

「まずい!!」

 それに気付いた士郎は、しかし気付くのが遅かった。
 

 魔術師が行おうとしていたのは、第二魔法に属する平行世界の運用、平行世界の移動であった。

 この魔術師は、すでに平行世界に穴を小さいながらも開けることに成功しており、魔力さえあれば多少強引ではあるが移動も可能であった。
だが、問題は移動した後にある。世界の門を開けることはできたが、世界の修正に対する対策が講じられていなかったのだ。
このまま平行世界の移動を行った場合、移動したものは本来その世界にあったものではない為にその世界の修正により存在が消滅する。
それを防ぐため魔術師は、冬木で起こった聖杯戦争のサーヴァント契約を利用する事を思いついた。向こうの世界の住人と強制的に契約することにより移動した人間を世界の修正から逃そうとしたのだ。
つまり移動する人間をサーヴァント、向こうの世界の住人をマスターに置き換えているのだ。


 制御していた魔術師が死んだことにより、術式が暴走する。
士郎はその暴走した術式による渦に飲まれそして、この世界から消失した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ