泡沫の夕暮れ

□寅叉=toramata=
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「ねぇ。ユウマ。ネコが何で喋らないか知ってる?」



彼女はにっこりと。いつものごとくミステリアスな笑みを浮かべて、俺に問う。



「喋らないのは犬も一緒だろ。どうしてネコなんだよ。」


「もう。そんなことはどうでもいいでしょ。大切なのは、ネコが何で喋らないか。よ。」


「ネコにとって喋るっていうのは、鳴くってことだろ?あれはあれで喋ってるじゃないか。」


「んもー。分かってないなぁ。」



からかっている様な上目遣いの目。ふわりと揺れる彼女の髪。


その彼女の腕の中では、いつもと同じように無愛想なトラネコが「おれの場所だ。」とでも言うようにすまして座っている。



「ネコはね。人間よりも、ずーっとえらいんだよ。人間に聞かれたくないから、自分たちだけの言葉を作ったの。」



「ねっ?」トラネコに話しかける彼女は、とても嬉しそうで。



「んなこと言っても、寅叉は応えねぇぞ。」


「ううん。応えてはくれないけど、分かるんだよ。」



にっこり。



彼女の不思議な笑顔が、おれのすぐ隣で綻んだ。




「寅叉はね。私のこと、わかるんだよっ♪ねー?寅又っ。」




トラネコの代わりとばかりに。


からんからんと、賑やかな鐘がなる。





「もう、ペットを学校につれてくんなよ。奏。」


「失礼しちゃうなー。寅叉はペットじゃなくて、私のお兄ちゃんなんだよ?」




背筋をピンと伸ばして、彼女の兄はすましている。






「だから、ユウマは寅叉に認めてもらわないと、私と結婚できないんだよっ。」











ねー。寅叉っ?







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