書物庫6(基本幕末作品・妄想日記より短編のみ)

□見果てぬ夢・其の参〜オッキー浮謔閨`
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『桂さんのオシゴト』

慎ちゃん目線に切り替えております

〜きっとこんなやり取りがあったと信じて疑わない小娘ちゃんが去った後の長州藩邸にて〜



「オレさまは、あの面白娘で遊ぶんだ〜

座布団を抱えて畳を転げ回る高杉さん。
この行動に意味があるのかどうかはよく分からないけど、とにかく手がつけられない。

「言葉をかえすようだが晋作、そこは“で”ではなく“と”が正しいよ」

どんな時でも生真面目な桂さんの訂正に感心していると、

「そんなことはどうでもいい!中岡、今すぐ戻ってあの面白娘を拾って来い!でないと切腹させるぞっ」

転げ回っていた体勢からがばっと一瞬で起き上がってにじり寄る高杉さんの勢いに、思わず腰が引けかける。

―今は桂さんも居ることだし、ここは反論きめるっス!

「ね、姉さんは犬や猫とは違うっス!いくら高杉さんの命令でもきけません」

我ながら態度はともかく、内容だけは毅然とした意見だったと思う。
すると高杉さんの鋭い眼差しから俺を庇うようにすっと桂さんが前に出て、弁護してくれた。

「中岡くんの言う通りだよ、晋作。お前の我儘で彼女を引き留めるわけには、」

けれども桂さんの説得の言葉は言い終わらない内に高杉さんの駄々に掻き消されてしまった。

「いやだ〜!あんな面白い娘はいないぞっ。オレさまは、絶対にあの娘がいいんだ〜」

「はぁ。…まったく仕方ないね。お前がそこまで言うのなら、私が一肌脱ごう」

眉を寄せた桂さんがため息混じりにそう言うと、高杉さんの目が輝いた。

「ほんとかっ!?」

高杉さんは座布団を放り投げ、桂さんの肩を掴む。
桂さんは高杉さんの手にそっと自分の手を重ねて肩越しに俺を振り向いた。

「勿論だよ。中岡くん、少し外に出ていてくれるかい」

「は、はい?」

俺は訳が分からないながらも頷いて、言われた通り部屋から出て襖を閉めた。

その途端。

「ひ、一肌脱ぐって今からかっ!?」

珍しい高杉さんの慌て声に思わず聞き耳を立てる。
すると続いたのは、どこまでも優しい桂さんの声…。

「そうだよ、晋作。お前の欲求不満を解消するのは私の務めだろう?ちゃんと明日、彼女には話をしに行ってあげるけどその前に…ね」

「いや待て、まだ真っ昼間、…っ!」

衣擦れの音が聞こえてきてそれ以上は居てもたってもいられなくなった俺は、寺田屋に逃げ帰ったのだった。



終.
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