屑箱
□金魚の数は愛の数?
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ザワザワザワ……――
『うわぁ…すごい人の数…』
「あぁ!愛しい君と一緒に祭りに来れるなんて…俺ってばなんてツいてるんだ!!」
多くの人で賑わうお祭り会場。
浴衣姿の私は呆然と人の波に立ち尽くしており、傍らにいる正臣はというとさっき一人で何か叫んでいて………
正直凄く恥ずかしい。
元はといえば、この祭りに誘ったのは帝人くんだったはずだ。
杏里も楽しみだと言っていて、四人で行くはずだったのに。
「さぁ!!花火が始まるまで時間あるし、何か食う?焼きそば?リンゴ飴?クレープ?あ、つか何か飲む?」
『……いや、いいよ』
テンションの高い正臣は私の顔を覗き込みながら言う。
そのテンションについていけず取り残された感のある私は、そっと溜め息を吐いた。
視界に映るのは、煌びやかな屋台と夫婦やカップルの姿。
ここの花火は恋人同士で見ると長く続くっていう噂があるから、そういう人たちは多い。
……ってか、このまま言ったら私と正臣も2人で見ることになるわけで………
ポッと顔が熱くなる。
正臣からは前々から熱烈なアプローチを受けてきた。
冗談だと笑って今まで過ごしてきたけど、何故かそれを今になって意識しだしてしまった。
「おーい?どしたの?」
『へ!?あ、いや……あの…そ、そう!!金魚欲しいなぁって…』
…ちょっと苦しい言い訳だったかな?
正臣と2人きりなことにドキドキしてました!なんて言えるはずもなく、とっさに嘘で誤魔化せば、彼は気付いているのかいないのか…「うっし!」と一人で意気込んで私の手を引いて歩き出した。
『あ、あの…正臣?』
「金魚欲しいんだよな?俺がぁ、とってあげようじゃないか!!」
『……できるの?』
「ノンノン、愛する君の為ならば…金魚ぐらい幾らでも取ってみせるさ!!そんでさ…」
いきなり立ち止まった正臣についていけず、私は正臣の背中に衝突。
鼻をさすりながら見上げた彼の顔は今までにないくらいに真剣で、思わず息を呑んだ。
「その金魚の数を、俺が君を想う愛の数だと思ってくれると嬉しいな」
君の為なら俺は軽く10匹は取ってみせる!!
さっきな真剣な表情はどこへやら。
正臣はいつも通りの笑顔を浮かべて、再び私の手を引いて歩き出した。
金魚の数は愛の数?
(うっし、12匹目ー!!見てた見てた?この俺の勇士を!!)
(……うん、格好よかったよ)
((たまには素直になってみようか))
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