屑箱

□木漏れ日揺れて
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「ナマエさまー!」

「ナマエさまー?」


鬼切と虎徹が呼んでいる。2人に、申し訳ないと思いながらも私は動こうとはしなかった。さらさらと木々が揺らめき、木漏れ日が降り注ぐ庭の大木のその上、欠伸を噛みしめ木の枝に腰かけた。
当初、この神社に来たときには20年分だと言われた参拝客の祈願帳も、ようやく残り数冊となり肩の荷がひとつ降りる。パラパラと捲った祈願帳には、これまたギッシリ敷き詰められた巴衛の字で埋まっている。
それもまた今ではナマエを微笑ませるひとつの材料となっている。


「ほんと…巴衛の書く字っていつみてもすごく綺麗」


文字列を指で辿る。
そうしたところでなにが起きるわけでもないのだが、 ナマエにとってはその字でさえも愛しいものだった。


「なんか不思議…」

「なにが不思議なんだ?」


目を閉じて風の流れを一身に感じながらボソリと呟けば隣から聞き慣れた彼の声。巴衛はごく当たり前のように隣に腰を下ろし私の手元にある祈願帳を覗きこんだ。


「祈願帳か、ようやくここまできたか」

「うん、あとちょっとだよ」


さすが、縁結びの神社とされるだけあって(当初はまったく知らなかったのだが)、祈願帳には恋愛絡みの頼みが多い。
巴衛がこっちにこい、と呼ぶから私は少し位置をずらして巴衛の肩に寄りかかった。巴衛は満足そうに笑うと私の頭を優しく撫でてくれた。
あぁ、これでは寝てしまいそうだ。


「ねぇ、巴衛…いつもありがとね」

「なんだ急に」

「なんとなく、今言いたくなったの」


初めこそ嫌がっていたが、神使として家族として……今では恋人として。巴衛は私を守ってくれている。これも縁結びの神様のお陰だろうか。
土地神としての私のことじゃなくて、言葉にはしにくいけど…この地に宿る力っていうの?この場所だから、巴衛とひとつになれたような気がするのだ。


「ミカゲさんのお陰かなー」

「ミカゲのお陰?なにがだ」

「ミカゲさんがいなかったら巴衛と出会えなかったんだろうなーって思って」

「あぁ、先の不思議だという話か」


…そうかも、しれないな。
巴衛は言うと私の肩を抱き寄せた。


「俺が誰かを、ましてや人間を愛すなど天変地異が起きてもありえないことだ」


お前が俺の最後の女で主だな、ナマエ。
そうだと嬉しいな。
俺を疑うのか?
そういうわけじゃないけどね。


「安心しろ、ナマエだけだ」


神社の中庭、神木の上。
木漏れ日揺らめく爽やかな時。
大好きな彼と、2人だけの小さな幸せ。



木漏れ日揺れて

(巴衛どのー!)
(ん?なんだ)
(ナマエさまを知りませんか!?)
(ここにいる…が、静かにしろ、ナマエは寝ている)



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