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そりゃ、俺だって他人のことをとやかく言えた成りじゃないのは十分承知している。
だがこの金髪も碧眼も初めから持って生まれたものであり、そこに俺の意思は皆無。
腐れ縁のアフロも派手な赤毛をしているがあれも地毛だ。
対するこいつはどうだろう。
真っ白な白髪に毛先が黒、その上赤メッシュまで入っているのだからまあなんと目立つ頭だとしばし眺めてしまうのも無理はない。
あまつジャラジャラと装飾品を身に付けたチャラい格好の挑戦者(性別不明)は、普段の俺と負けず劣らずやる気の無さそうな態度でバトルフィールドの端に突っ立っていた。

「…ねぇ、いつになったら始まるの」

…訂正。
性別は多分女だ。
男にしては高い声には若干の苛立ちが混じっている。
あまりに奇抜なその容姿に半ば茫然としていた己を叱咤し、俺はモンスターボールに手をかけた。

「そのド派手な頭だけじゃなく、バトルでもせいぜい俺を楽しませてくれよ」

女は嫌みに顔色一つ変えることなく、ただ静かに俺を見ていた。


***


そういえば、もう十数年も昔になろうか。
俺には幼なじみがもう一人いた。
遠い地方から引っ越してきたのだというそいつは馬鹿みたいに寡黙で、聞かれたことにすらまともに答えないような奴だった。
元より他人に対する興味が薄い俺は大して関わろうなんて思わなかったがアフロは違う。
乗り気でない俺を無理矢理引っ張り、そして更に乗り気でないそいつを巻き込んで何度か一緒に遊んだ気がする。

『俺はオーバ、んでこっちがデンジだ。仲良くしようぜ!』
『………』
『なんだよずいぶんクールな奴だな。お前、名前は?』
『……───、』



…名前を何と言ったか。
いつの間にかナギサから居なくなっていて、その後一度とて見かけたことはないあいつは。

「…ルカリオ、“地震”」
「………!」

効果抜群の技を受け倒れた俺の切り札、エレキブル。
レントラーもライチュウも、地面対策のランターンですら…体力の残っているやつはもういない。
負けた。
シンオウジムリーダーの中で最強の俺が、たった一匹に。
負けた。
…負けたんだ。
その三文字がぐるぐると脳裏を駆け巡る中、電光掲示板に映し出された勝者の名前。

「…×××…?」



『…女みてぇな名前だな』
『はぁ?何言ってんだよ、デンジ。お前、おばちゃんから聞かなかったのか?今度ナギサに引っ越して来る奴は女の子だって話!』
『………』
『ふーん…。ま、女ならポケモン持っててもどうせコンテストだろ?』
『……バトル、』
『え?』
『バトル、しよう。今から私と』

気怠げな瞳が、何気なく言った俺の一言で爛々と輝いた。
自分の名前しか口にしなかった奴から出た“バトル”という単語。
純粋に面白い、と思った。
ナギサのガキの中で1・2を争う俺に、引っ越して来たばかりの新参者。
結果なんて分かり切っていると少し得意になっていたのは認める。
だが手を抜くような真似は誓ってしなかった。

『ピカチュウ、“でんこうせっか"!』
『…リオル、“カウンター”』
『な…ッ!!』

優勢だった。
なのに呆気なくひっくり返された局面。

『う、嘘だろ…?デンジのピカチュウ、戦闘不能…×××の勝ちだ!』

あの時の、驚愕と興奮がない交ぜになったようなオーバの声がまざまざと思い起こされる。
喉の奥がひきつるような感覚。
体は冷えていくのに、頭はショートしたかの如く熱を持ち何も考えられない。
目を回すピカチュウを抱き起こした俺を見据えて、あいつは静かに言った。





…見くびるな。





あの時と全く同じシチュエーションで、全く同じ台詞。
薄れきり忘れ去られようとしていた記憶が蘇る。
馬鹿みたいに呆けたまま立ちすくむ俺を後目に、久々に再会を果たしたかつての幼なじみは暇そうに大きな欠伸をひとつ漏らした。

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